劇場公開日 2016年11月5日

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「大切な人を大切にするってどういうことかを考えさせられる」ボクの妻と結婚してください。 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0大切な人を大切にするってどういうことかを考えさせられる

2022年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

単純

寝られる

「大きなお世話じゃ、私のことなんだと思っているのよ」と言いたいような、荒唐無稽な思い付き。
 バラエティTV関係者ならではの思い付き。笑えるならなんでも許されると思っているのかなあ(今のTVそのもの)。
  自分の気持ちしか考えない、妻の幸せを願っているようで、妻や息子、巻き込まれる人の気持ちは考えてない。
 笑顔を強要して、妻や息子が悲しむこと、一緒に悲しむことすら取り上げようとする。
 「嫌なことも楽しくしてしまう」ポジティブ志向と良いように聞こえるが、要は死への恐怖から目をそらしていられるように、なにかプロジェクトに没頭しているようにも見える。
 気持ちはわかるけどね、「余命数カ月」と突然付きつけられたのだからと思いたいが、元々自分の仕事ネタに家族を巻き込む「風船のような」夫。

と、設定自体は、TVのバラエティ企画のようなドタバタ、お祭りのような現実感のない浮かれたあぶくのような映画なのだけれど、そこに吉田さん演じる妻が入ることで、そこだけ現実味が帯びてくる。この奇想天外な話が現実化してくる。なんてすごい役者なんだ。それでいて、ちゃらい演出の織田さん、原田さんと絡んでも浮かない。
 反対に、空回り、勘違い男。すごいことをしていそうで、底の浅さが透け透け男を演じさせたら右に出る者がいない織田氏が、演じることで、このばかばかしい喜劇がファンタジーではなく、誰かが思いついた茶番として成立する。こちらもすごい。

どう生きるか、どう死ぬか。どう生きさせてどう死なせるか。
究極の難しい選択。
 夫の最期の願いを叶えて、笑顔で逝ってもらうという覚悟する。
 それに、風船のようなこの夫なら、この夫の提案に乗らなければ、妻である自分から離れてどこに飛んで行ってしまうかわからない。夫と最期の時を過ごす手段として、”条件”付きでこの提案にのるしかなかったのだろう。
 よく、がんばったよ。そう言葉をかけたくなる。

原作があったことも、NHKでドラマ化されていたことも知らないで鑑賞。
 予告でもすでに開示されているプロットは、韓国映画の『悲しみよりもっと悲しい物語』と一緒。『死ぬまでにしたい10のこと』でも”残される幼いこの子達為に母を探す”というエピソードが出てきた。
 三つの映画はシュチュエーションは似ているが、展開が違い、後味が全く違う。
 『死ぬまでに~』は、頼りにならない夫にあとを託せずに「幼い我が子たちに母を」と決めて物色するが、ちょうど都合のいいお隣さんが引っ越してきて、なんとなく主人公とお隣さんの思惑が一致して(近所のおばさんとして、子どもが身の周りのことを自分でできるようになるまでの数年)…と円満的な方向に話がいった(夫とどうなるかは描かれていない)。
 『悲しみより~』はカップルの話。自分の幸せを犠牲にして相手の幸せを願うという”泣き”を強調しているけど、相手ときちんとコミニュケーションをとらないで双方自己陶酔に酔い、巻き込んだ人を不幸にした顛末に憤りすら感じた。
 けれど、『ボクの妻と~』は夫婦をメインにしたことをうまく生かして夫婦の物語したところがうまい(子どもがあまりにものわかりの良い子なので心配だが)。
 勿論涙は誘うが、基本”笑顔”。原田氏の爽やかな笑顔、痛々しい笑顔…。いろいろな笑顔が登場する。
 そして何より、現実には夫婦って様々なことがあるし、この映画の夫婦関係もつっこみどころ満載だけれど、それでも「夫婦っていいかも」と映画館を出る時に思わせてくれた。

なのだが、
日が経つにつれて冒頭の想いがあふれ出てくる。
相手のことを大事にしているようで、傷つけている男。
大切な人を大切にするってどういうことなのか、考えさせられる。

とみいじょん