ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男 : 映画評論・批評

2015年9月29日更新

2015年10月3日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

旧弊なハリウッド・システムと闘い続けたアルトマン監督

ニューシネマ以後のアメリカ映画史を眺めてみても、ロバート・アルトマンほど多産で、エネルギッシュで、一作ごとに万華鏡のように作風が千変万化し、アイロニーと辛辣な批評精神に満ちた映画作家は見当たらない。「ナッシュビル」に代表される、複数の視点が交錯し、ポリフォニックな物語が紡がれる<群像劇>、「三人の女」を頂点とする、夢と現実の境界を浮遊するヒロインの深層心理に迫った特異な<女性映画>、フィルム・ノワールを魅惑的に脱神話化した「ロング・グッドバイ」を典型とする<ジャンル映画>。どれもアルトマン以外、誰も撮れない問答無用の傑作ばかりだ。

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本作は、<アメリカン・インディペンデント映画の父>と称され、旧弊なハリウッド・システムと生涯にわたって闘い続けた、この偏屈にして老獪な映画監督をめぐるドキュメンタリーである。監督のロン・マンは、従来の孤高の反逆児というイメージを鮮やかに裏切るように、妻キャサリンの証言や子供たちが撮った親密なホーム・ムーヴィを活用し、よき家庭人としてのアルトマン像を提示する。その延長に、ゆるやかな紐帯で結ばれた家父長的なアルトマン流の映画づくりの秘密が垣間見えてくる趣向だ。アルトマン一家で最も古い盟友マイケル・マーフィから遺作に寄り添った最後の弟子ポール・トーマス・アンダーソンまでの寸言が面白い。どれもが正鵠を射ていながら、少しずつズレているようにも思える。なかなか容易に尻尾をつかませないのがアルトマン映画の魅力なのだ。

眼光鋭い哲学者のようなアルトマンの風貌が、歳を重ねるにつれてさらに澄明な深みを増してくるのはなぜだろうか。冒頭と掉尾を飾るのは、映画つくりを砂の城に喩えるお気に入りのキーイメージだが、束の間の幻影としての映画、その儚さを諦観していたからこそアルトマンの映画は決して古びないのである。

高崎俊夫

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