劇場公開日 2015年9月11日

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キングスマン : 映画評論・批評

2015年9月8日更新

2015年9月11日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー

秘密道具からスーツの着こなしまで、すべてを大胆不敵に詰め込んだスパイ・アクションの決定版!

それは一瞬の出来事だった。「英国王のスピーチ」で映画界の頂きに登り詰めた名優が高級スーツ姿で下町のパブに乗り込み、傘を振り回した俊敏な身のこなしでゴロツキどもを一網打尽。乱れたヘアを整え、優雅に溜め息を「ふう」とつく。コリン・ファース、54歳。彼にオスカー以上の栄誉を授けるならば、それは今しかない。

表の顔は高級テーラーの仕立て職人。その素顔は、諜報組織キングスマンの凄腕スパイ、ハリー・ハート。ある日、新人発掘の必要性に迫られた彼は、不遇な環境で人生を持て余す青年エグジー(タロン・エガートン)に目をつける。ほかの候補者はみな、頭脳明晰で高学歴を鼻にかける者ばかり。果たしてエグジーは過酷な選抜戦を乗り越え、新メンバーの座を射止めることができるのか――。

マシュー・ボーン監督は往年のスパイ物にオマージュを捧げつつ、おもちゃ箱をひっくり返したようなその世界観を、伝統と革新にのっとった手さばきで鮮やかに仕立て上げる。次々と登場するガジェット満載の秘密道具。「スーツとは?」「マナーとは?」といった紳士道の教え。それから、やんちゃなIT富豪役のサミュエル・L・ジャクソンがもくろむ荒唐無稽なテロ計画。129分間、エレガントかつエキサイティングな一挙手一投足は、観客の熱狂を一向に冷まさせることがない。

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そもそも本作は、かつて労働者階級出身のショーン・コネリーが007を演じる際に徹底した紳士教育を受けたという逸話を受けて膨らんでいった。ボーン監督は恐らくここに普遍的なテーマを見出したのだ。階級に限らず、誰もが限界や境界を抱えている。それらを飛び越えて己の人生と闘う。そこにこそ紳士たる者(この場合、もはや男女は問わない)の宿命がある。

そういえば、キングスマンの頂点に立つアーサー役マイケル・ケインもまた、労働者階級出身として知られる映画界のレジェンド。60年代に007と人気を分けたケインの代表作「国際諜報局」のハリー・パーマーを踏襲し、本作ではメンバー全員が黒ぶちメガネを着用しているのも何やら象徴的だ。

ケインからファース、さらに新鋭エガートンへ。世代交代は進む。そして本作はスパイ映画としての裏側に、かくも蒼い情熱の炎を揺らめかせている。「限界をぶち破れ」。そのメッセージに観客の心が熱く燃える時こそ、円卓の騎士たちのミッションが真の意味で完遂される瞬間なのかもしれない。

牛津厚信

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