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◆紙の月

バブル崩壊の後、モラルの重みに抗い、転落していくヒロインを宮沢りえが好演
  バブル崩壊直後の1994年を背景に、銀行の契約社員として働く平凡な主婦梨花(宮沢りえ)が、若い男との愛欲に溺れ、莫大な金額の横領に手を染めていく転落の軌跡を描いた直木賞作家・角田光代のベストセラーの映画化である。

  一見、いささか古色蒼然とも思えるプロットだが、巧みな語り口による「桐島、部活やめるってよ」で、青春映画にまつわるクリシェを刷新した吉田大八監督は、この新作でも旧来の犯罪もののサスペンスという定型を踏まえつつ、もうひとつの主題を浮かび上がらせる。それは因果律に支配されたモラルの桎梏(しっこく)から出来うる限り逸脱しようとする、果敢な作劇の構築である。

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  その伏線として、幾度かヒロインの中学時代の光景がフラッシュバックされる。カソリック系の厳粛な雰囲気を漂わせる学校の教室で、修道女は、世界で貧困と病苦にあえいでいる人たちへの寄付を説く。ところが少女は善意に駆られたある行為によって、修道女に烈しく叱責される。この紙幣という具体的な媒介を通じて描かれるエピソードは、彼女の内に、世界が単純な善悪二元論では成り立っていないことの酷薄さをトラウマのように刻印する。

  原作よりもはるかに銀行の内部空間が克明に描かれているのもそのためだ。映画独自のキャラクターで、同僚のヒロインを誘惑するメフィスト風の小悪魔・大島優子、そして硬直したモラルの権化のような先輩・小林聡美が、それぞれヒロインの隠れた分身として活き活きと好演しているのも見どころのひとつである。

  40代を迎えた映画女優宮沢りえにとっても代表作となるだろう。まさにバブル期において、その時代の象徴のようにもてはやされ、スキャンダラスに翻弄された宮沢りえの表情には、どこか虚ろさと儚さ、メランコリックな暗さが宿っている。その消しがたい陰影が、この映画のモラルの重力から解放されたヒロイン像をより魅力的なものにしているのだ。

(高崎俊夫)


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