劇場公開日 2015年2月28日

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さいはてにて やさしい香りと待ちながら : インタビュー

2015年2月26日更新
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佐々木希、女優としての確固たる決意 もがいた果てにつかんだ新境地

俳優はキャリアを積み重ねていく上で、後にターニングポイントになったと思える作品があれば幸せだ。佐々木希にとっては「さいはてにて やさしい香りと待ちながら」が間違いなくその1本になるだろう。初の母親役、しかもシングルマザーという、これまでのイメージを一気に覆す変ぼうを見せた。悩み、落ち込み、もがいた果てにつかんだ新境地。ひと言ひと言かみしめるように話す姿からは、女優としての確固たる決意がうかがえた。(取材・文/鈴木元、写真/千田容子)

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モデルという肩書は、どうしても見た目が先行する宿命を背負う。佐々木もその類に漏れず、女優としてはどこかフワッとした現実感の乏しい役柄の印象が強かった。2人の子どもを持つシングルマザーという役どころは、大きな挑戦であったことは想像に難くない。だが、出演を決めるうえで迷いはなかったという。

「母親としては若いし、ちょっとぶっきらぼうで自分の弱さを隠すために強がって生きている女性ですけれど、人間くさいというかこういう人っているなとリアルに思えたんです。彼女が成長して、最終的には母親として強くなっていく姿に感動したので、最初に脚本を読んだ時点で演じたいと思いました」

奥能登で小学生の姉弟と海辺にある休業中の民宿で暮らす絵里子は、金沢で仕事をしているため家を空けることも多く、時に子どもたちにも冷たく当たる。外界との交渉を絶ち、家の目の前でコーヒー店を始めた岬(永作博美)に対しても、露骨に敵意をむき出しにするほど。台湾の姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督とは、その心理について綿密に話し合いながら撮影を進めた。

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「女性監督で繊細な表現をされる方だったので、例えばただ怒っているだけの姿ではなくて、その裏にある悲しみといった微妙な心境を演じるのはすごく難しかった。そのあたりは監督と密に話し合いながらやっていましたね。監督の思うところに少しでも近づけるよう、葛藤していました」

主演で2児の母でもある永作の存在が大きな支えとなった。

「女優としてはもちろんのこと、透明感がとてもありナチュラルな方で女性としてもあこがれます。子どもの話もよくされて、お仕事をしながら子育ても頑張っている。1人の女性として素晴らしいと思いながら、私は必死についていった感じでした(笑)。悩んでいた時にかけてくださった言葉で一気に肩の荷が下りたこともありました」

一方で桜田ひより、保田盛凱清の子役2人にも刺激を受けたという。おいやめいとよく遊ぶほどの子ども好きで、母親を疑似体験できたことをうれしそうに振り返る。

「撮影に入る前にコミュニケーションを取る機会をたくさんつくっていただいたので、距離を縮めることができました。母親の気分? 感じることはできましたね。やっぱりかわいいし、子どもが疲れて眠くなったりしているのを見ると母性をくすぐられて心を奪われました。その半面、撮影では集中力が高くて、監督の言っていることを瞬時に理解してすぐできるので尊敬しますね」

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絵里子の身勝手さや怪しげな恋人(永瀬正敏)に依存している姿には育児放棄ではないかと怒りさえ覚える。だが、それは役としてしっかり地に足がついていることの証左だ。孤独や寂しさに打ち勝つために、虚勢を張っていたことが次第に分かってくる。きっかけは岬の危機を救うシーンで、その前後で印象はガラリと変わり、演じる上でも心境の変化が芽生えていった。

「抱えていた変なこだわりが一切なくなって一気に視野が広がったというか、余裕のある大人になれた感じはしました」

民宿とコーヒー店だけがポツンと建つ石川・珠洲市のロケ地も、役づくりにおいては好環境だったといえる。同じ日本海に面した故郷・秋田に似た雰囲気も感じられたという。

「いい意味で本当に静かで、お店もあまりないので集中できたところはあります。ちゃんと自然を守っていて、緑の香りというかマイナスイオンがすごくある。ちょっと秋田に似たところもあって懐かしい気分になりました。考える時間もたくさんあったので、それが良かったと思います」

だが考えれば考えるほど、悩みも大きくなる。何度も壁にぶつかり、その都度乗り越えていったからこそ、撮影を終えた達成感も今までになかったものだった。

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「今まで演じたことが全くない種類の役だったので、すごく難しかったし悩みました。毎日『なんでできないんだろう』って。だからアップした時は『ハアーッ』という開放感(笑)。それほど悩んだ作品ですが、その分やりがいはありました。本当にこの役に出合えて良かったと思います」

2006年、「週刊ヤングジャンプ」のプリンセスPINKYオーディションでグランプリを受賞し、芸能界入り。モデルとして一気に脚光を浴び、08年「ハンサム☆スーツ」で女優デビューしたが、当初は演技に興味はなかったという。だが、経験を積むにしたがって魅力が増し、「さいはてにて」によってさらに“前のめり”になったようだ。

「まだ自信はないですけれど、ひとつ引き出しが増えて少しは成長できたのではないかと自分では思います。お芝居をきちんとしなきゃいけないと思えたし、お芝居の部分で褒められるのはとてもうれしいですよね。だから、これからも素敵な役に出合えるように頑張ろうって思います。心でお芝居をして、見ている方の心に響くような演技をしていきたい。ちょっとした器用さも欲しいなって思いますけれどね」

どん欲な姿勢が自信へとつながり、さらなる成長を促す。いたずらっぽく笑う佐々木の瞳は強い輝きを放ち、まさに希望に満ちた未来を見据えているようだった。

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