劇場公開日 2014年1月25日

エレニの帰郷 : 映画評論・批評

2014年1月14日更新

2014年1月25日より新宿バルト9ほかにてロードショー

切ないまでの親密さが漂う、叙情の作家アンゲロプロスの遺作

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一昨年、不慮の交通事故で逝ったテオ・アンゲロプロスの遺作である。未曽有の傑作「旅芸人の記録」以来、アンゲロプロスは、壮麗な神話の枠組みを使って、独裁、戦争、占領、内戦、亡命、ファシズム、コミュニズムといった20世紀固有の最重要テーマを揺るぎなき論理と比類なき映像美で描いてきた。

「エレ二の旅」に続く現代史3部作の2作目にあたる本作では、スターリンの死、ウォーターゲート事件、ベトナム戦争、ベルリンの壁の崩壊と20世紀後半の歴史的事象に立ち当たったエレ二(イレーヌ・ジャコブ)とスピロス(ミシェル・ピッコリ)、ヤコブ(ブルーノ・ガンツ)の3人の男女のからみ合った愛の行方を主題に据える。映画はエレ二の息子である映画監督A(ウィレム・デフォー)が政治に翻弄された両親の受難の歴史をテーマに新作を撮っている〈入れ子構造〉を採ったために、しばしば、フィクションと現実、記憶と現在の境界が曖昧になり、ドラマの内的緊張を弱めてしまってもいる。

だが、盟友であった大島渚と同等、アンゲロプロスは本質的には叙情の作家ではなかったろうか。哀調を帯びたアコーディオンの旋律に乗って、越境を重ね、年老いてベルリンで再会した3人がダンスに興じるシーンには切ないまでの親密さが漂っている。そしてラスト、壁の崩壊以降、ドイツ統一のシンボルとなったブランデンブルグ門を背に、雪が舞う中、スピロスと孫のエレニが満面の笑みを浮かべて走ってくる光景には、永遠の時を刻むかのような、気恥ずかしいまでのノスタルジアが満ちあふれている。

高崎俊夫

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