劇場公開日 2013年9月14日

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Miss ZOMBIE : インタビュー

2013年9月12日更新
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SABU監督が異色ゾンビ映画で見せる家族愛と小松彩夏の新境地

蟹工船」「うさぎドロップ」といった原作ものから、デビュー作「弾丸ランナー」に代表される独特のオリジナル作品までを生みだしてきたSABU監督が、「幸福の鐘」以来約10年ぶりにオリジナルストーリーで挑んだ「Miss ZOMBIE」。異色のゾンビ映画ながら、SABU監督は「みんなが泣けたと言ってくれたのがうれしい」と顔をほころばせ、映画初主演を果たした小松彩夏は「今まで見たことがない、新しい自分を発見できた」と満足げにほほ笑む。ふたりは、ゾンビという存在にどのような思いを託したのだろうか。(取材・文・写真/編集部)

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SABU監督は、「低予算」「5日半の撮影期間」という厳しい条件下で、本作の撮影を行った。しかし、作品の規模に関係なくクオリティを追求。海外マーケットも視野に入れた作品づくりを目指し、「(世界に通用する)面白いものがないかなと考えたとき、ゾンビは世界的に認知度が高く、共通のイメージができているので、今までにないアプローチで家族の話をつくりたいと思った」(SABU監督)。

「自分の作品は基本的に人間を描いていて、壊すところから始まる」というように、SABU監督は人間ドラマを描き続けてきた。今回、限りなく人間に近いゾンビを登場させることで、ある一家の幸せがほころんでいく様子に繊細かつ大胆に迫る。ゾンビの沙羅(小松)は、寺本家で異質な存在としてさげすまれていたが、一人息子の健一を救ったことをきっかけに人間らしさを取り戻す。一方、母・志津子(冨樫真)は沙羅の存在により家族が離散する恐怖に心を病んでしまう。SABU監督は「ゾンビが人間っぽくなり、人間がゾンビっぽくなっていく対比」を軸に、人間とゾンビの関係の滑稽さをシリアスに見せている。

SABU作品は、これまで銀行強盗に奔走する男(「弾丸ランナー」)、男性営業マン(「DRIVE」)など、男性を主人公に据えてきた。本作では、沙羅と志津子というふたりの女性を核にすることで、母性愛というテーマに挑戦している。「家族というものは、我慢や犠牲のうえに成り立っている幸福感のなかにある。異質なものが入ってくることによって、いろいろなものが崩壊していくということを描きたかった。また、ゾンビが完全にゾンビ化せずに踏みとどまっていることができるのは、唯一しがみついている小さな記憶や母性のためだと思う。そういう愛がテーマで、自分たちの行動のなかに愛がちゃんとあるかということがメッセージなんです」

それゆえ、SABU監督が描くゾンビは、映画をはじめ海外ドラマ、アニメなどに見るゾンビブームとは一線を画し、ゾンビに襲われた人々が逃げ惑うサバイバル映画ではない。完全にゾンビ化できずにいる沙羅が、人間の好奇、嫉妬の火種となって愛憎渦巻くドラマとなっている。難しい主題にもかかわらず、小松が演じた沙羅は、セリフも感情の起伏もほとんどない。おまけに初主演という大役を担い、「初主演の作品が決まったと聞いてすごくうれしくて。でも、タイトルが『Miss ZOMBIE』で、脚本を読んでみたら私がゾンビ役で衝撃でした。さらに、モノクロの作品になるという聞き、すべてが衝撃的で驚きの連続(笑)」と戸惑いもあったようだが、繊細な演技でこれまでのイメージを一新している。

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役づくりについて聞いてみると、小松は「監督の中で絵ができあがっていたので、『私は乗っかるだけだな、監督に全部託そう』っていう感じ」と謙遜し、「セリフがあれば説明することができるけれど、目の動きひとつや顔の角度で表現しなければいけない。家から駅まで、すり足で歩いたりしていました(笑)」とゾンビらしさを出す動きに苦心したという。SABU監督は、そんな小松に「最初はあまり信用していなかった(笑)。だから画コンテをきっちりかいて、形通りに撮っていこうと思っていた」と茶化しながらも「でも、現場に入った小松さんは予想をはるかに超えたうまさでした。ちょっと止まって男の子を見る場面では絶妙な角度をやってくれるし、走りも大好きでしたね。自分の過去作品は走るシーンが多いけれど、あの走りはトップ3に入る走り」と手放しに絶賛した。

本作では、ゾンビの沙羅だけでなく、すべての登場人物のセリフがそぎ落とされている。「セリフというのはなければない方がよくて、映像で語るということが一番大事。映像だけで伝わる方が面白いし、その方が力強い」と語るSABU監督は、冨樫や手塚とおるらにも無言の演技を要求する場面を用意した。「ハリウッド映画は、音をどんどん足していく。見る分にはダイナミックで面白いけれど、引いていく作業の方が難しい。全部丸裸になっていくようなものですからね。音が少ないと映像に意識がいくので、完成度が高い作品になる。音を足すと簡単に見せられるけれど、そこはやりたくないなあと思った」

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ゾンビという題材やセリフに加え、モノクロ映像も大きな演出のひとつだ。一切の感情を失っていた沙羅が、健一との交流を通して心を取り戻し、世界にも色彩がよみがえる。しかし、沙羅は「人間だったときの記憶があったからこその行動」(小松)というひとつの決断を下し、物語は衝撃のラストへと向かう。そして、再び色のない世界へと逆戻りしてしまう。沙羅の心の動きが、映像の色彩に反映されている。

俳優としても活躍し、原作・オリジナルと多くの作品を手がけてきたSABU監督。「(沙羅が生んだ子どもは)双子で、ひとりが人間で、もうひとりが少しゾンビ化している」という結末に続く内容も練っていたことを明かし、オリジナルストーリーならではの自由な発想を展開。「衝撃のラストカットもそうですけれど、予想を越えた話というのは原作モノにはないものかもしれない。できる限りハッピーエンドなものがいい。今回は切ないけれど、ある意味ハッピーエンドなんです」

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