劇場公開日 2013年4月6日

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「オーディアールの意地悪と優しさが好きだ」君と歩く世界 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0オーディアールの意地悪と優しさが好きだ

2024年3月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

見始めて、思っていたより後ろくらく、シーンが急に変わるなと感じていた。
フランス映画はこんなだったかなと考え始めた時、思い出した。ジャック・オーディアール監督作品だった。
オーディアールだから観たかったのだ。オーディアールだから観ているのだった。

オーディアール監督の編集は少々不親切。理解が追い付くギリギリくらいに分かりにくい。しかしそれが良い。
物語が始まって、徐々に沈んでいき、エンディングでふわっと浮かび上がる。これが好きだ。
唐突に優しさで包まれる感じなのだが、そこに至るまでにしっかりと必要な描写を積み重ねているので、完全な理解は出来なくとも納得できる曖昧さも良い。
最初の設定から受ける印象と全然違う方向に物語が進むのも面白い。しかしこれはダメな人も多いだろう。予想を裏切る展開と期待を裏切る展開は同じことだが意味が異なる。
さて本作はどうだろうか。

アリという男は面白いキャラクターだ。単なる粗野な男にも見えるが人並みの優しさも持ち合わせている。
彼にとってはあらゆることが特別ではない。姉、仕事、両足を失ったステファニー。
ステファニーは自分に哀れみを見せないところにひかれていくのだが、逆に言えばアリにとって特別な存在になれないことも意味する。

原題は「錆と骨」
錆は傷という意味合いもあるらしい。多分その解釈でいいだろう。
骨は、エンディングでアリが語る言葉そのままだろう。折れた骨は元通りにはならないが治る。元より強くなることもある。人にも同じことが言える。
自分本位だった二人が傷つくことでお互いの必要性に気付く物語。

オーディアール監督らしく、荒々しい力強さがあるのに繊細で、時々、目を見張るシーンがある。
傑作とまではいかないけれど、良い作品だった。

二時間で人の成長をしっかりと描けるオーディアールはやっぱり好きだ。
好きだと断言できる数少ない映画監督の一人。

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つとみ