民衆の敵(1976)

劇場公開日:

解説

ノルウェーの小さな町を舞台に、町の財政を支える鉱泉をめぐって町の有力者たちと対立する1人の医師の信念を描く。エグゼクティヴ・プロデューサーは主演のスティーブ・マックィーン、製作・監督は「ゼネレーション」(69)のジョージ・シェーファー。ヘンリック・イプセンの原作を基に戯曲家のアーサー・ミラーが翻案した同名戯曲をアレクサンダー・ジェイコブスが脚色している。撮影はポール・ローマン、音楽はレナード・ローゼンマンが担当。出演は他にビビ・アンデルソン、チャールズ・ダーニング、マイケル・クリストファー、エリック・クリスマス、リチャード・ダイサート、マイケル・ヒギンズなど。口本版字幕は清水俊ニ。メトロカラー。ピスタサイズ。1976年作品。

1976年製作/107分/アメリカ
原題:An Enemy of The People
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1983年3月18日

ストーリー

1880年、ノルウェーの小さな町キルステン。医者であり、鉱泉の水質検査官であるトーマス・ストックマン(スティーヴ・マックィーン)は、妻キャサリン(ビビ・アンデルソン)と3人の子供たちモーテン、エジリフ、ペトラらと平穏に暮らしていた。兄のピーター(チャールズ・ダーニング)は町長をしていたが、保守的な町の有力者たちと対立する卜ーマスとは、口論が絶えなかった。町の新聞社人民日報』のハヴステッド(マイケル・クリスファー)、アスラクセン(リチャード・ダイサート)、そして親友フォースター船長(リチャード・ブラッドフォード)らを自宅に招いて夕食会を開いたある夜、卜ーマスは重大なことを打ち明ける。町の財政の大半を支える鉱泉が有機物によって汚染されているというのだ。大学に水質調査を依頼した結果、原因は上流にあるなめし革工場がたれ流す水にあることがわかったのだ。その工場の経営者キル(エリック・クリスマス)を父にもつキャサリンは、夫の言葉を複雑な気持ちで受けとめた。早速そのことに関心を持ったハヴステッドが、社説に書こうと言い出す。そして大学からの報告書を新聞に掲載し町に知らせようと策を練りはじめた。しかし、翌日、ピーターがやって来て、逆に卜ーマスを『鉱泉の汚染を知らしめることは町にとっては不幸なことだ』と批判した。そんなピーターの言葉にもトーマスは屈せず、彼は『人民日報』の経営者ビリング(マイケル・ヒギンズ)らに報告書を渡した。トーマスが帰った後、ピーターがやって来て、ビリングらに、『報告書を掲載すれば町の評判は落ち人々は苦境に立つ。卜ーマスは町を自分のものにしようとしているのだ』と告げた。沈黙する人々。新聞社の協力が得られなくなった卜ーマスは、自らの手で集会を開き報告書の内容を人々に知らせることを思いつく。しかし雪の日に開かれた集会では、ピーターの根回しで議長に立ったビリングの裁量で、卜ーマスは一言も発言する機会を許されなかった。ついに民衆の敵とビリングに呼ばれた卜ーマスは、ひとり家に帰っていく。町の人々がイヤがらせで投石し、子供たちは仲間はずれにされ、長女は職を失った。しかし、どんな苦境に立とうとも、この町から去らず1人闘うことを、卜ーマスは強く心に誓うのだった。

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映画レビュー

4.0民主主義を主張する独裁者

2020年7月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 1882年にノルウェーのヘンリック・イプセンによって書かれた戯曲(翻訳:アーサー・ミラー)を映画化した作品。どんな温泉地なのか見てみたくなるほど、舞台劇のようなこじんまりとしたセットで作られていた。これがもっと大掛かりだと満点かな。

 ノルウェーの温泉のある小さな町キルステン。観光収入も伸び、発展しつつあったが、医師トーマス・ストックマンは独自に水質調査を行い、そこには細菌による汚染がある事実を掴む。それを親しい新聞記者ビリングやホブスタットに伝えると、政治家、役人の不正を暴きたいとホブスタットは躍起になった。しかし、その思惑も町長ピーター自らが否定し、トーマスの陰謀論を唱えるのだ。

 そんなトーマスはピーターの実弟。兄弟喧嘩もここまでくると異常なほどだ。町長としての権力、権威主義を振りかざし、町の発展のためには温泉の導管を再工事するわけには行かぬ。仮に工事しても30万クローネもかかるし、町が工事費を負担するため増税已む無し。しかも工事期間は2年かかり、その間町の観光収入は無くなるのだと訴える。観光客に感染症が広まってもいいのか?!という疑問には、すべてトーマスのデマである・・・と反論する。

 恐ろしい田舎の人たち。もう、町民はほとんど町長支持者だ。講演会を開いても、寝返った編集長が議長となり、トーマスに喋らせない。彼が計画した講演会も町長の独壇場になってしまうのだ。そして、採決・・・何を採決するんだ?「トーマスに喋らせない」「トーマスを民衆の敵と認める」「トーマスとは一切口をきくな」という採決だよ、おぞましい。トーマス支持者は親友のフォースター船長だけになってしまう。

 ここまででも見るのがしんどくなる展開なのに、さらに凄い展開があるのです。村八分だけは嫌だ!と思いつつも、義父にあたるキールが面白いし、手の平返すような人間も愚かだと痛感する。また、民主主義=多数決だと信じている人にはぜひ見てもらいたい映画だ。マジョリティがいつも正義か?キリストの処刑を反対したか?ガリレオの地動説はどうだ?

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kossy
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