劇場公開日 2012年1月28日

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しあわせのパン : インタビュー

2012年1月27日更新
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原田知世&大泉洋が伝えたい、“しあわせ”な気持ち

「北海道の知られていない魅力を伝える映画を作りたい」という思いから、企画がスタートした映画「しあわせのパン」。選ばれたのは、北海道・洞爺湖のほとりの小さな町・月浦。パンカフェ“マーニ”を営む1組の夫婦と、店をおとずれる人々の人生を描いた、心温まる物語だ。マーニのオーナー夫婦を演じるのは、原田知世と大泉洋。自然体という言葉がとてもよく似合う2人が演じる水縞夫妻を通じて見えてくるのは、月浦の自然の風景とタイトルにもある“しあわせ”のあり方──。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

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カフェ“マーニ”にやってくるゲストは、心のどこかに悩みを抱えている。そんな彼らを癒してくれるのは、夫・水縞くん(大泉)が焼いたパンと、妻・りえさん(原田)がいれるコーヒー、そして2人の心のこもったもてなしだ。だが、理想の夫婦に思える2人もまた、悩みを持って月浦へやってきた。原田は「りえさんは、心の奥の扉を閉めて鍵をかけてしまっているんですよね……」と心情を分析する。「東京で頑張ってきたけれど、だんだんと心が疲れてきて、無意識のうちに心の奥の扉を閉めてしまったんです。彼女を思いやって、水縞くんはりえさんを月浦へ行こうと誘ってくれるんです。時間をかけてその扉が開いていくというか、それは月浦という場所であったり、水縞くんの穏やかで包み込むような愛であったり、そこに訪れる人たちとの出会いであったり、そういういくつものことがあって変化していくんですよね」。ひとりではできないことも誰かと一緒ならできる、喜びもつらいことも分け合うことが幸せ──当たり前だけれど忘れがちなことを、気づかせてくれたと言う。

りえさんを深い愛で見守り続ける水縞くんを演じる大泉は、2人だからこそ生まれる強さを体現し、女性があこがれる理想の男性像を作り上げた。原田の「この映画が公開されたら、大泉さんが理想のだんなさまNo.1になると確信しています」というほめ言葉に照れながら、男性目線の幸せ感を語る。「人はひとりでも生きていけるけれど、夫婦だったり、自分以外の大切な人がいると、その人を守らなくてはならないという思いが芽生えるもの。その人を守りたい、その人のために頑張る、そう思えることで人(男)は強くなれる。だから、大好きな奥さんをずっと見守る水縞くん、見守り続けるしかない彼の気持ちは、男として理解できたんです。最後にりえさんから一番欲しかった言葉を言ってもらえたときの水縞くんのほっとした気持ちも、ものすごくよく分かる。まあ、2人でいることによって、いろいろな制約や大変さもありますけどね(笑)」

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そんな水縞くんというキャラクターに、原田自身も恋に落ち「急かさずに待っていてくれる、すべてを受け止めてくれるところが素敵なんですよね」と優しくほほ笑み、大泉が演じたからこそ水縞くんが理想の男性像として映し出されていると解説する。「水縞くんの穏やかなところ、言葉数が少ないながらもしっかり相手を見つめているところとかは、大泉さんのふだんのキャラクターとは違うかもしれないけれど(笑)、大泉さんにもともとある“ぬくもり”が役を通して出ていると思うんです」。確かに、エンターテイナーの印象が強いだけに、極端にセリフの少ない役どころは新鮮そのもの。本人も「これまでの役は、圧倒的にしゃべる役、コミカルな役が多かったので、新たな挑戦だったかもしれないですね。いつもは、セリフを覚えることが役者として大事な作業だったりするんですが、今回はその必要がなくて。だから、その力を表情に込める必要があった。それほど語らないけれど、愛情が伝わり続けないとラストのあの感動にたどりつかないですから」。また、これまではブサイクであればあるほど喜ばれる仕事が多かったと笑うが、水縞くんを演じるにあたっては、監督から「さっきの方が洋さんがかわいく映るって言われたり。僕をかわいく撮ろうなんて監督は今までいませんでしたらね」

水縞くんという役柄によって、これまでの“らしさ”を打ち破った大泉だが、撮影以外の現場では“らしさ”はそのまま、ムードメーカーとして常に周囲を笑わせ、居心地のいい現場を作っていた。「大泉さんはみんなを楽しませる天才! 私たち(水縞夫妻)は季節ごとにお客さまをお迎えする役柄、現場に新しい役者さんたちが入ってくると、お誘いしてみんなで一緒にご飯に行くんです。ここのお店おいしいんですよ! って連れて行ってくれる。みんなで一緒にご飯を食べる時間が多かったことが、いいチームワークを生んだ気がします」と、大泉の気遣いに感心しきりの様子だ。

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また極めつけは、月浦の自然のなかでりえさんが水縞くんの髪を切るシーンだ。多くを語らずとも2人の心が通じ合っているのが伝わってくる、温かな時間が流れるシーンのひとつだが、それは台本にはなかった設定だと大泉は語る。「メイクをしながら原田さんといろいろ話をしていて、この夫婦はいかにも髪を切ってもらってそうな夫婦ですよね? って話をしていたんです。ちょうどその日は良いお天気で、そのアイデアを監督に言ったら、急きょ、小道具を用意してもらって、足してもらったシーンなんです」。そんな何気ない日常の一コマが、この夫婦を描くうえで大切なのだと原田が言葉を添える。「雪道を彼の足跡にそって歩いたり、ただ野菜を一緒に洗ったり、洗濯物をほしていたり、ごく普通の日常を重ねていくことで、2人の暮らしぶりや距離感が伝わると思ったんです。それは月浦だからこそ生きてくることでもあって。あの場所だといろいろと想像できるんですよね」

水縞夫妻の何気ない日常にはいつもパンがある。ブルーベリーのパン、コーンのパン、クグロフ、リンゴのはちみつパン、チーズのパン……。そして、パンと一緒に出されるいれたてのコーヒー、かぽちゃのポタジュー、冬野菜のポトフが人々の心を癒す。パンの魅力を、原田は「ごはんもパンもそれぞれの魅力があって両方好き。ただ、この映画と出合ってパンっていいなと思ったのは、ひとつのおにぎりは(あまり)2つに分けないけれど、1つのパンは分け合えるということ。そういうのっていいですよね」

パンを分け合うこと、喜びや悲しみを分け合うこと、月浦の自然豊かな時間を分け合うこと、この「しあわせのパン」には、さまざまなものを分け合うことの素晴らしさが詰まっている。もちろん、この映画で感じた“しあわせ”な気持ちも、きっと誰かと分け合いたくなるはず──。

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