劇場公開日 2012年4月28日

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「山葵が足りない。現代のお伽噺。」わが母の記 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0山葵が足りない。現代のお伽噺。

2022年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

幸せ

祖母を思い出してしまった…。

良い人だらけの映画。
粗筋読めば、もう少し心がささくれ立つところがあると思うんだけどな。
原作未読。原作がそうなのか。演技がそうなのか。演出がそうなのか。

とにかく、樹木希林さんの演技は圧巻。
息子を思う母、嫌味なばあちゃん、幼児化した様。
息子を巡る取りあい。しかも息子は相手方を良くいい、自分のことは恨んでるらしい。やりきれないよね。息子の心を取り返す為に鬼気迫る形相にもなる。
そして幽霊のような進出奇抜さ。
そして、眼の焦点すら合わない表情。これが演技で演じられるものなのか。
ばあちゃんを見ながら、ハラハラドキドキ。
 認知症になった後に亡くなった自分の祖母が画面にいるかのようでした。

周りの出演陣も好投していたんだけど…。
親子の確執ってあんなもん?ばあちゃんと洪作の確執。洪作と三女・琴子の確執。
時間が流れているのはわかるけど、
諍いしている時の葛藤があまり際立っていないから、
ちょっとした喧嘩で、あっという間に仲直りできたように見えます。

役所氏の本来の人の良さが、葛藤中の演技にも出てしまって、肩透かし。師匠の仲代さんだったらもう少し凄味が出たんじゃないかなあと思う。他の役者なら、もっとやりきれなさとか複雑な想いとか、神経質なところとかが出たのではと思ってしまう…。
 例えば、「僕は母に捨てられた」とよく言うけど、映画の出だしから母への眼差しが温かい。成人男子だったら、表面的には「母への恩・敬愛」を示しながらも、実は密かに母に向ける眼差しが冷たいとなるんではないだろうか?「捨てられた」という言葉に含まれる、恨み・嫉み、悔しさ、情けなさ、それでも断ち切れずに求めてしまい、どこか「愛されていた」という確証を探したい気持ち等々が見えるときもあるけれど、見えてこない時の方が多い。というか、見えるように見えるときも”演じている”のが、わかってしまうから、今一つ伝わってこない。のれない。親と確執ある身には「そんなもんじゃないぞ」と言いたくなる。

 家長としての存在も、ただ大きな声で怒鳴っているだけで凄味は感じられない。底の浅さは見えるけれど…。
 もう一つ、セレブな生活も、セレブに最近なった人のセレブ生活ー慣れなくて、無理している感じ、ちょっとおどおどしている感じ。役所氏も相当なセレブなはずなのに、なぜなんだろう。

あおいさんもひょうひょうとした雰囲気が災いして、思春期の反発の影が薄い。介護のストレスにしたって…。たんなる仲の良い親子のじゃれあいにしか見えない。

洪作の妻の扱いも不満。お手伝いさんにしか見えないよ。洪作の妹達の奔放さに比べると。
 でも実は、家族の根っこを握っていたのは…。というシーンもさりげなさすぎるほど、さりげなく描かれている。のだが、地味な妻なので、見過ごしてしまう。

そんな中でも、三國さんはすごい。寝ていて、息子へ手を伸ばして、手を握り、離す。たった、それだけなのに、この方の元気なころの性格、息子との関わり方が見えてくる。

鑑賞後の感想ではこんな感じでしたが、

インタビュー記事や、他の方のレビューを拝見して、愕然。
小津作品を勉強してこの作品を作った?え?どこが?
確かに、それらしい場面はあるけれど…。
映画全体の腰の座り方が違う。構えが違う。
 画面の構図の問題だけでなく、テーマに対する切り込み方。小津作品は舞台を観ているかのように、あまり動かない。この映画は視点が変動しまくる。
 テーマへの切り込みも小津作品は鋭いが、この映画は「何をテーマにしたかったんだ?家族を描きたかったのはわかるけど、家族の何を描きたかったの?」と詰め込み過ぎて散漫、切り込みが甘い。
 また、小津監督なら、登場人物の心情を台詞で言わせない。この映画は、上記の「母は僕を捨てた」と洪作が思っていることも、洪作の作品に描かれていると言う以外に台詞で”説明”しちゃっている。他にも多々”説明”台詞が出てくる。小津監督なら登場人物のやりとり、関係性、演技で見せる。心情が台詞で出てきたとしても、”説明”ではない。
 人と人とのぶつかり合い、心のささくれも、小津監督は描きぬく(とても冷徹なシニカルさがありつつも温かい)けど、この映画は、そういう葛藤はほとんど描き込まずに、心温まる交流場面にしてしまっておとぎ話になっている。この映画の演出なのか、演技なのかシニカルさはない。
 小津監督は、本当に日常の些細な出来事の積み重ねを描く。一見些細な出来事なんだけど、どこにも無駄のない研ぎ澄まされた場面の積み重ねで見せてくれる。反対に、この映画は無駄が多いし、説明不足も多い。
 そんな違いから、この映画は小津作品を表面的に真似てみただけの作品にしか見えず、小津作品とこの映画を並べられると不愉快で☆3つ。

とはいえ、希林さんの演技に浸りたいから、何度も視聴すると思います。なので☆ちょっとUP。 (完全に主観・好みの評価)

息子だとわからず「どこかのどなたか」という認識しかできないけれど、息子に背負われて安心しきって眠るばあちゃん。あんな風に全存在を預けられる存在がいるっていいですね。

とみいじょん