劇場公開日 2011年12月17日

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「映画馬鹿に、栄光あれ!!」CUT ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画馬鹿に、栄光あれ!!

2012年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

幸せ

イラン映画の重鎮アッバス・キアロスタミと並び、同国映画界を担うアミール・ナデリ監督が、日本においてその存在感、演技力が評価を高めている西島秀俊を主演に迎えて描く、群像劇。

様々なジャンルの作品で端正な顔立ちを披露している人気俳優、西島秀俊が外国人監督と組んだ作品。多くの女性が、イケメンが躍動する「格好良い」物語を期待して鑑賞されるようだが、その一点のみを目的に本作に挑もうとするのなら、悪いことは言わない。他の作品をご鑑賞いただいた方が良い。

何故か。物語冒頭こそ、セクシーな魅力をまき散らして西島が東京を疾走するスピード感を堪能できるが、後半は主人公が誰なのかすら血まみれで全然分からない。ボッコボコに殴られ、青アザに埋め尽くされた顔は、いくら素材がイケメンでも「西島様~」と歓声を送る気には到底なれない。この前提をしっかりとご理解いただいた上で、この作品に向き合う必要がある。

では、この作品は駄作か?西島というネームバリューに頼り切った企画作品か?答えは、NOだ。大いに、NOだ。

映画という音楽、演劇、そして暗闇の美学をごちゃ混ぜにした異色の総合芸術。その不可思議さ、難しさ、そして魅力に少しでも興味を抱く方なら、この物語が放つエネルギーに心が躍るはずだ。

全てを投げ打って、自分の体を犠牲にして腐っていく映画界へと反発していく一人の男。その荒々しいまでの純粋さを、暴力との対比を通してむき出しにしていく。それは、クライマックスの名作映画たちへの溢れ出す情熱を露骨に提示する表現にこそ強く表れる。ここでは多くは語れない。ただ、観てほしい。

ここまでして、初めて人は「映画、愛してます」と堂々と語れるのかもしれない、なんて勝手に思ってしまう。それだけのインパクトが熱を持ってぶつかってくる。

「馬鹿」という言葉は、大抵負の感情をもって使われる。鼻で笑われる人間に、使われる。でも、敢えて正の感情をもって私は、使いたい。馬鹿は、世界を変える。変えてくれる。そんな強い可能性をみせる本作に、声高に告げたい。

映画馬鹿に、栄光あれ!!

ダックス奮闘{ふんとう}