劇場公開日 2011年5月14日

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「脚本と演出が巧みで、時にコミカルな演出に大笑いしつつ、涙と共に真実の愛を感じさせてくれる傑作作品」ジュリエットからの手紙 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0脚本と演出が巧みで、時にコミカルな演出に大笑いしつつ、涙と共に真実の愛を感じさせてくれる傑作作品

2011年4月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 イタリアのヴェローナには、ジュリエットの生家があり、今なお恋に悩む世界中の女性たちが、そこを訪れて、ジュリエット宛の手紙を壁に貼り付けているのです。その数は年間5000通にものぼるとか。
 書かれた手紙は放置せず、一通ずつ“ジュリエットの秘書”と呼ばれているボランティアの女性たちが返事を書いています。
 彼女たちの出す返事が、時に信じられないような愛の物語を紡ぐことも起こるようです。本作は、本当にあったジュリエットの手紙よる愛の奇跡を映画化した作品でした。

 脚本と演出が巧みで、ありきたりなロードムービーを予測不可能なラブロマンに仕上げていました。殆どラスト近くまで、主人公は50年前の初恋を成就させるための恋のキューピット役に過ぎないだろうと思わせる展開。でも恋の主役は、やっぱりあなた!主人公だったのねぇ~と大逆転させるストーリーに、すっかり引き込まれました。

 50年前の初恋が叶うシーンは、感涙ものです。ロマンティック・コメディ映画を撮り続けてきたウィニック監督だけに、時にコミカルな演出に大笑いしつつ、涙と共に真実の愛を感じさせてくれる傑作作品でした。

 記者になることを夢見ているソフィーは、日々の取材のための調査活動を通じて、真実の愛の存在を確かめてみたいと思っていました。ソフィー自身が、結婚を目前にして、ちょっと考えさせられることをかかえていたからです。
 その原因を作っていたのは、婚約者のヴィクター。彼は、イタリアンレストランの開業を控えて、食材探しに忙しい日々を過ごしていました。料理への情熱は、本場イタリア人にも負けないほど(^^ゞそんな彼の積極さにソフィーは惚れたのでしょうけれど、全然自分にかまってくれないのです。
 一足早いイタリアへのハネムーンを兼ねた婚前旅行でも、ソフィーをそっちのけで、本場の食材に夢中になって、ヴィクターは産地を駆け巡ります。
 憧れの恋の街ヴァネッサに彼と共に来ているのに、市内観光もできないことを不満に思ったソフィーは、独りで街の散策に出かけてしまいます。
 「ジュリエットの家」に辿りついたソフィーは、そこで壁から手紙を剥がしている“ジュリエットの秘書”に興味を持ち、跡をつけます。「取材」と称して、ジュリエットの秘書たと親しくなったソフィは、自らも手紙の返書書きに参加するなかで、50年前に書かれた女性からの古い手紙を見つけて、返事を出すのでした。
 数日後、祖母に余計な手紙を書いたのは誰だと、秘書のオフィスまでイギリスからひとりの青年がわざわざ怒鳴り込んできました。驚くソフィーは、落ち着いてその手紙を送った祖母と合わせて欲しいと懇願しますが、チャーリーと名乗る青年は祖母を気遣い、引き合わせようとしません。しかしソフィーはチャーリを勝手に尾行し、クレアに強引にあってしまいます。そこでソフィアは、手紙を読んだクレアが初恋の人を探すためはるばるイタリアにやってきたことを知ります。彼女の決意に感銘を受けたソフィは、初恋の人を探す旅に同行し、記事したいと頼みこむのでした。
 クレアはソフィを歓迎して、3人の旅が始まります。ここからイタリア各地の自然を背景にした映像美溢れるロードムービーが展開されていきました。

 ソフィアの智慧で、ある程度探す範囲を絞り込んでも、ロレンツォという名前の同姓同名のイタリア人は意外と多く全て人違い。名前だけが頼りの当てがない旅に、何度も孫のチャーリーは、見つかるはずがないから諦めようとしつこく水を差します。そんな現実主義のチャーリーに、真実の愛を信じたいソフィアは反発します。けれども、彼の不幸な身の上が、シビアな人生観をもたらしたことを知り、ロンドンではボランティアに励んでいるという優しい一面に触れることで、チャーリーに対して見方が変わっていきます。
 チャーリーという一見ネガティブな存在が、本作の巧妙な仕掛けの一つ。後半にふたりの仲が接近するのにつれて、チャーリーとフィアンセの間で揺れ出すソフィの思いがどうなっていくのかドキドキさせられるところが、本作の見所の一つです。
 それにしてもイタリア人は情熱的です。人違いと分かってもロレンツォと名乗る老人たちは、初見のクレアを口説こうとします。さすがはお国柄ですね。

 やがてチャーリーが恐れていたこことが起こりました。ロレンツォの墓が見つかったのです。本作の脚本が優れていることは、他の作品ならもうここで終わり!というシーンをひっくり返して、最後には観客が納得する展開に帰結させてくれることです。
 帰路、哀しみにくれるクレアが見つけたのは、記憶に残る葡萄園でした。なんというこことでしょう、そこには50年前のロレンツォが葡萄を収穫しているではありませんか。聞けばその青年の名前もロレンツォ、その父の名前もロレンツォ。ではでは祖父はと聞くとロレンツォだったのですね。しばらくするとそのロレンツォが白馬に跨って、バカバカと駆け寄ってくるではありませんか。まさに臆面もなく、「白馬の王子さま」の登場です。 50年を超えて、ロレンツォはクレアを忘れたことはありませんでした。ふたりの再会は感動的。本当に真実の愛を感じずにはいられないシーンでした。
 葡萄園の映像美が、50年という時間の流れを感じさせず、クレアの記憶を蘇らせたことにリアルティを持たせました。優れた演出だと思います。

 しかし本作の恋の主役は、あくまでソフィアです。ここでハッピーエンドにしないのが本作のいいところ。チャーリーとソフィアがキスしていたところを見ていたクレアは、帰国しようとするソフィアを追うようにチャーリーを励まします。孫には、自分のように後悔して欲しくなかったので。でも、チャーリーはバルコニーでキスしあうふたりを見てしまい、そのまま撤収してしまうのです。

 晴れてふたりは結婚式を迎えるのかと思いきや、ここから大どんでん返し。クレアとロレンツォの結婚式に招かれたクリアは、かつてクリアに出した「ジュリエットからの手紙」を朗読されたことで、真実の愛を掴む決断を下すのでした。
 ロレンツォのスピーチやソフィアの書いた手紙の文面など、一つ一つの言葉が深い人生の含蓄を含んでいて、とても感動させられました。

 ところで、クレアを演じるヴァネッサ・レッドグレーヴとロレンツォ役のフランコ・ネロとは実生活でもパートナー。劇中と同じく初共演から40年後の2006年に結婚。劇中の設定と同じく、イギリスとイタリアという遠距離にありながらも、愛を育み続けたふたりの演技が、物語に深いリアルティを与えました。

 最後に、ウィニック監督は本作の製作後に脳腫瘍のためお亡くなりになりました。49歳という若さでした。謹んで哀悼の意を表します。

流山の小地蔵