劇場公開日 2010年4月10日

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第9地区 : 特集

2010年4月14日更新

【特別対談】芝山幹郎×滝本誠 その2

本作のもう一人の主役、クリストファー・ジョンソン(中央)
本作のもう一人の主役、クリストファー・ジョンソン(中央)

■エビと人間の異種交配はドギースタイル?

滝本:しかし、あのエビたちはアッという間に増えてしまったよね。あの特別居住区のなかに180万人いて、2010年の「第10地区」に移転する頃には250万人になっているわけでしょ。なんか牛の死体から肉汁をチューブで挿入されたぶよぶよの子宮めいた袋が大量にあったけど、彼らの生殖システム、よくわからない。単性なのか?

芝山:それにしても、すごい増殖力というか、繁殖力。

──エビたちはどうして組織化しないのでしょうか?

芝山:それは、やっぱり頭のいいエビがほとんど死んじゃったからでしょ。

滝本:でも実際のところはわからないんだよ。冒頭でそういう見解も語られるけど。

芝山:「スターシップ・トゥルーパーズ」の陰部ボスみたいに、どこかに隠れている可能性はあるけどね。

28年間も宇宙船が浮かんでいるのは リアリティなさ過ぎ?
28年間も宇宙船が浮かんでいるのは リアリティなさ過ぎ?

滝本:そうじゃないと困るよね。あんなにオバカばっかりじゃ(笑)。ラストなんかは野良犬みたいなものだからね、あれ。たまたまクリストファー・ジョンソン親子みたいに賢いのがいたからいいけど、この1万分の1くらいの比率、どうにかならんかね(笑)。まあ、このテクノロジーと、エビたちの行動の落差。これがこの映画で一番笑えるところなんだけど。

芝山:あの落差は大きかったね。あと、ナイジェリア人のマフィアが黒人の娼婦をエビたちに抱かせているでしょ、あれは異種売春だよね(笑)。どうやって交わるんだろう。ドギースタイルしかありえないよね(笑)。痛そうだけど。

滝本:実際に出来るのかな? 下半身事情をもっと知りたい。

芝山:ドギースタイル以外は不可能じゃないかな。主人公のビカスもエビの女と交わったからあんなふうに変身した、なんて風評を流されてたけど、人間の雄とエビの雌が交配するのも大変だよね。

──エビと人間の異種交配もそうですが、28年間も宇宙船が浮かんでいるなんてリアリティがなさ過ぎ、みたいにも受け取られると思いますが、どうでしょう?

芝山:普通は重力で落ちるだろ、みたいなね。でもエビたちは重力銃を作っているくらいだから、なにか重力を操作する術を持っているんじゃないんですか。きっと忍術みたいに、浮かせる力をもっているんですよ(笑)。ただし、飛ぶことは出来ない。それは、滝本さんが直立は出来るけど、走ったり、運動したりすることはできないみたいなものでね(笑)。

滝本:だからこそ、僕はすごくエビに親近感を抱いているんよ。よく何言ってるかわからないと言われるし(笑)。基本的に俺はやられている方に同化しちゃうからね。

エビのアップ。あなたは凝視できるか?
エビのアップ。あなたは凝視できるか?

芝山:クリストファー・ジョンソンなんて、最後のほうは可愛く見えちゃうでしょ。つい親近感を抱いてしまう。その辺の作り方も巧いですよね。だから僕は、これを見て、ゴアとかグロとかいう人の気が知れない。

──そうですか? かなり気持ち悪いですよ。女性はダメな人、多いと思います。

芝山:そうかなあ。大丈夫だと思いますよ。女性の編集者でも、楽しかったという人が何人もいましたよ。

滝本:ところで、この映画には女のエビは出てきた? 僕は女のエビを見たかったのよ。

芝山:外見的には、触角の形が少し違うとか、そのくらいでしょうけどね。そういえば劇中で、ビカスがエビに向かって、触角をこっちに向けてしゃべるな、と言うでしょ。ああいうのも可笑しい(笑)。

──雄でも雌でも気持ち悪いことには変わりないですよ。

滝本:さっきから、気持ち悪い気持ち悪いと言ってるけど、あんな気持ちいい造形はないじゃないか! 目の前に来てブチュっとやられたら、そりゃ抵抗はあるかもしれないけどさ。

──最後のほうはたしかに感情移入できますけど、「スターシップ・トゥルーパーズ」は最後まで喋らないし、造形が虫そのものだったから、今回以上に見るのが辛かったですね。

芝山:たしかに「スターシップ・トゥルーパーズ」は、そこが弱かった。結局「口を利かないエイリアン」だと、従来のエイリアン像を出ないんですよね。

滝本:でもアナル型のボス、良かったじゃない(笑)。あの陰部ボスの登場は大感動だったよ。僕はあれを見てすぐにその年のベストワンに決めたんだよ。スペルマがピュッと出て、「おおお、精液でこんなに宇宙船を破壊する映画は初めてだ」と大感銘を受けましたよね。

芝山:まあ、あの辺の確信犯的馬鹿馬鹿しさは笑わせてもらいましたけどね。ただ同じオランダ系でも、バーホーベンよりブロムカンプのほうが頭の回転が速いような気がする。

■ナイジェリア人激怒は当然

滝本:しかし、ナイジェリア人はこの映画を見て怒らないのかね? 特定されちゃってるし(笑)。

芝山:たしかに唐突だよね。でも、ナイジェリアというのはアフリカ諸国の中でも、際立って治安が悪いところらしいよ。ラグーンの水面には毎日死体が浮かぶという噂を聞いたこともあるし。

南アのサッカーワールドカップは大丈夫か?
南アのサッカーワールドカップは大丈夫か?

滝本:それにしてもあのオバサンジョっていうマフィアのボスの顔すごいよね(笑)。いかにもマフィアって感じで。

──ナイジェリアでは上映禁止になったらしいですよ。ナイジェリアの大臣が「売春婦や犯罪者はどこの国にもいるだろうが、人肉を食べる人はほとんどいないし、この国にはいない。この描写は、絶対に受け入れられない」といって抗議しているみたいです。

滝本:やっぱり! まあ、怒るわな。あの流れのなかで、あそこだけいきなり固有名詞だからね。普通にジョイントという感じでナイジェリアだからねえ、驚きだったよ(笑)。

芝山:でも妙にリアルだったし、結構しっくり来るんですよね。先入観かな(笑)。

──監督たちは、ナイジェリア人からひどいことされたんですかね?

芝山:売春婦に性病をうつされたとか? 恐ろしいよね。

滝本:そういえば、ナイジェリア・ギャングのボスも良かったけど、傭兵のクーバス大佐のツラもかなりの極悪面でいいよねえ。どれもいい顔キャスティングしてる。

芝山:南アの白人って、描き方によっては本当に極悪って感じがするよね。殺しても死なないみたいな(笑)。まあ、アパルトヘイトなんて恐ろしいことを実際に何十年もやっていたわけですからね。最近はなくなったけど、一時期のハリウッドは、南アの悪党をロシア人悪党の後継者に仕立てていたくらいだし。

滝本:サッカーワールドカップも無事に終わればいいけどね。

>>【特別対談】芝山幹郎×滝本誠 その3

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