「色んな思いが重なった深いため息が出る」ライフ・オブ・デビッド・ゲイル 77さんの映画レビュー(感想・評価)
色んな思いが重なった深いため息が出る
またまたお気に入りが一本増えてしまいました。
重厚なテーマを重厚なトーンで描いたがっしりした洋画はすごく久しぶり。こういう、ハリウッドらしくないけどアメリカならではのアメリカ映画も大好きです。
社会派作品としてもサスペンス作品としても上等な、先が気になり続ける緊張感のある無駄のない脚本に緊迫感のある演出、そして実力派揃いの役者さん達の演技に魅せられてすぐ見返したくなるようなお話です。
たしか大どんでん返し物と聞いて興味を持った記憶があるんですが、その記憶が曖昧になった頃に観られて本当によかった!最近予備知識に悩まされてたからすごく嬉しいですw でもそうじゃなくてもきっと大満足してた気がします。
というのはその大どんでん返しというのも、全く予想が立たずに騙されたー!!というカタルシスがあるとより、「はっ」とするけど淡々(でもないけど適当な言葉が浮かばない。。)と受け入れられるような、解釈を上書き保存するようなことが続いてラストに少し大きく「はっ」とするけどすぐに納得できて「はー」っと唸るという新鮮な感覚で、それがまたすごく良くて。
重いテーマの中全てに意味のある演出、伏線回収がすごく小気味よく、「???」状態だった最初のシーンへの繋がりにしかり、デビッド体液がコンスタントの体内に残っていた愛のある種明かしにしかり、要所要所でちょっとずつひっかかる「?」が二転三転を経て最後に太い一本の線になっててその脚本と演出の秀逸さには感動するばかり。
伏線だろうなとは思ってはいつつ、話が進むに連れて頭の隅の方に移動してた何気ない一コマ(教壇の言葉とか息子の欲張りなリクエストとか)も最高の形で後になって活きてきたり、
シーンが変わる毎に単語が何枚か一瞬だけ映る映像もずっと色味が明る過ぎてこの映画には蛇足な演出なように思ってたけど、最後の賛成派と反対派が交差するシーンで“社会”(その他大勢、部外者)とのトーンとか温度の対比としてあえてそうしてたことに気付いたり本当にたまらない演出の数々。
カメラワークというか視点の切り替わりもすごく面白くて、物語のキーになるビデオテープの最初のシーンは戦慄が走ったほど。映画であんなに生々しい殺人(もとい…)って初めて見たかも。ローラ・リニー本人の体だというから更に驚きです。
そしてそれを仕上げる素晴らしい俳優陣。
ケビン・スペイシーのお芝居はホントにいいなあ。。 彼が話すとその目を見入ってしまいます。
教壇に立ってた頃のデビッドとアル中の時期のデビッドと檻の向こうのデビッドはまるで別人に見えることもあるのに、その中にある一本の芯みたいなものを感じさせてくれててホントに凄いと思っていたところにあのオチなので余計凄みが増します。
ローラ・リニーはコンスタンスが抱える葛藤を本当によく表現していて、そんな経験もないのに気持ちが手に取るようにわかって切なくなるほどでした。
葛藤してたのはビッツィーも同じで、テープを見た後や最後の面会の時に女性として、ジャーナリストとして、そして“人間”として複雑な思いになる様と、そんな頭と心のアンバランスをふっきった後のピッツィーの行動力をケイト・ウィンスレットがパーフェクトに演じていて、『タイタニック』のローズ見えないほどでした。
あるラインを越えたがゆえのデビッドの“静”とビッツィーの“動”。死刑執行までのタイムリミットが限られている中この対比が本当に効いていました。
「人は日々死を遠ざけようとする。そのために食べ、工夫し、愛し、祈り、闘い、殺す。」
すごく印象深い言葉です。
そして
「失った物が多いほど死は希望になる。」
「私の命はどうでもいい。息子の記憶に父親としてどう残るかだけだ。」
と言うデビッド。
普通に生活してたらきっと一生立てない境地を目の当たりにし、人間くさく体当たりで真相に迫るビッツィー。
ビッツィーの「彼女自分でやったのよ!」には鳥肌が立ったし、テープを見つけてから刑が執行された(描写しないであっさり“その後”なのが逆に時間の残酷さ際立たせてて素晴らしい演出)と聞き号泣するところまでの人間の心理描写が本当に素晴らしい。
ハプニングは映画的ではあるけど緊急事態にならないとわからない通常運転のありがたさや、普段なら頑なにNOな事が後々考えると自分でびっくりするほど簡単にできるような、ルール無用の頭より体が動くあの感じがこれでもかというくらい伝わってきました。
そして死刑制度に対する問題提起。誰かが自分の考えを言うだけで誰かの人生に深い傷を与えてしまう本当に難しくて重い問題です。
監督は自分の意見を押し付けたりせず全部見終わった観客に「で、あなたは死刑についてどう思う?」と改めて聞いているように感じました。
でも死刑については実際に身内を失うか、もしくは自分や身内が死刑囚になってみない限り、私が賛成だとか反対だとかを口にしていいのかもわからないくらいの考えなのは変わらず、答えがだせなくてきっとそういう議論にはこれまでもこの先も参加できないままだと思います。だけどもっと考えてみようとも思いました。
死刑と並んで考えさせられたのは人それぞれの考え方、そして“旅立ち方”。
他人に理解できなくても本人が納得してるならきっとそれこそがハッピーエンド。
この作品にハッピーエンドという言葉は似合わないけどデビッドたちの計画がフォローまで徹底していたお陰で息子の未来も“利用された”ピッツィーにも救いがあって、こんな話なのに後味がいい。それは絶望を知ってるデビッドの希望と優しさに満ちた幕引きがそうさせてるのでなんだか感慨深いです。
当事者たちの気も知らずに周りは好き勝手に言うものだけど、私たちは常に“当事者”でもあるし“周り”でもあるということを改めて考えました。
印象の項目で[興奮][知的][難しい]の3つを選んだの多分初めてなのですが、普段選択肢がピンとこないことが多いけど色んな意味でまさにそんな感じの映画でした。ずっと泣きそうになりながら過ごす2時間というのも珍しい体験でした。
とにかくデビッドの人生を見られて本当に良かった!
私が監督だったら死刑を扱えるかもわからないし、撮るとしてもこんな風には仕上げれないと思うので本当に感心した作品です。
としぱぱさんのコメントいつも嬉しいですありがとうございます(´∀`)
77さん、コメントありがとうございます。
作品も秀作でしたが、コメントにも力が入っていますね。
この作品への感動がすごくよくわかります。
テーマをストレートに表現=伝える事ができる監督って意外といないんですよね。
こねて、こねて観る側に違う印象を与えたり、無駄に考えさせたり・・・。
私にとっても心に残る作品でした。