劇場公開日 2001年6月9日

「シンデレラ・ストーリー?違うだろ。※重要部分に触れない程度のネタバレあり」デンジャラス・ビューティー alalaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5シンデレラ・ストーリー?違うだろ。※重要部分に触れない程度のネタバレあり

2020年6月30日
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鑑賞方法:TV地上波

楽しい

単純

幸せ

映画サイトの紹介を見てると「サスペンス・コメディ」とか「シンデレラ・ストーリー」とか書いてあるけど、正直ちょっと的外れだと思います。確かにあらすじだけ見ると「地味女がキラキラになってイケメンと恋するシンデレラ・ストーリー」かと勘違いしてしまいますが、それは上辺の話。
「意識高い系のキラキラ女育成ストーリー」みたいなモロに女性向けです!!と言いたげな広告打ったのが大失敗だったと思います。あれ日本だけか?ポスターダサ過ぎるんだが…
吹き替えで見ましたが、そこまで違和感はありませんでした。

あらすじ:
主人公のグレイシーはプロファイリングにも武術にも長けている血の気多めのFBI捜査官。仕事一筋で、オシャレにまるで興味なしだったが、連続爆弾魔からミスコンを殺すとの爆破予告があり、若い女性捜査官がグレイシーしかいなかったため渋々グレイシーがコンテストに出場することに。どうにかラスト5人まで残れれば優勝者を守ることができると主催者側に直談判したが、グレイシーのあまりの下品さに大反対され、最低限コンテストに出場するにふさわしい人間になれと、美容コンサルタントのビクターを講師につけられる。ビクターも最初は辟易した様子を見せるが、何とか見られるように仕上げて会場へ。不安しかない様子のグレイシーだったが、いざ周りの出場者たちと交流を持つようになると、グレイシーも徐々にやる気を見せ始め…

…と、上辺だけなぞると、グレイシーがミスコンに出場することになり、(見てくれだけは)綺麗になるので、確かに「シンデレラ・ストーリー」に見える。でも、本作は「地味女が美女に大変身して輝かしい人生に転身する物語」ではない。大事なのはそこじゃない。

グレイシーは最初、「ミスコンなんて見た目だけの女が『世界平和』とか言ってりゃ優勝できる馬鹿の集まり」みたいな偏見を持っていて、その世界を知ろうともしていない。が、捜査のために渋々ドレスを着て化粧をし、歩き方、笑顔、ダンス等々を習いつつ、他の出場者との友情を深めていくうち、出場者がどんな思いでそこに立ち、どんなことを考えているのかを知り、身近に感じて始めて、ミスコンという舞台がどんな世界なのかを知っていく。
表向き、地味女が煌びやかな世界へ入っていき、オシャレをさせてもらって皆に認められハッピーエンド…みたいな話に見えるかもしれない。が、本作のテーマは、「グレイシーが美しくなって人生の勝ち組になること」「地味女がオシャレを学んで社会的偏見の通りの『女らしい女』に成長していくこと」ではない。
むしろただのシンデレラ・ストーリーのつもりで本作を見ていると、グレイシーが見た目だけは綺麗になるけど、結局最後は下品なままで中身は何も変わってないじゃん!!ということになってしまう。大事なのはそこじゃない。

本作のテーマは「知ろうともせずにいた世界に思い切って飛び込んだ時、思ってもみなかったものを手に入れるかもしれない」「変化すること、成長することは、イコール自分らしさを失うことではない」ということだと思う。

グレイシーは自分を偽らなくても、新しい環境に飛び込んで、自力で友情を手に入れた。自分を認めてくれる友人を作ることができた。
本来、少なくとも最初のうちは、捜査の一環だから周囲と仲良くする必要もなければ、優勝までする必要もない。適当に最低限の努力さえしていれば良いし、適当に話を合わせていれば良かった。グレイシーも途中まではそんな態度だった。でも、出演者たちと触れ合ううちに思い入れができ、自分から彼女たちを知ろうとし、任務とは別に自分の意思で彼女たちを守ろうとした。

確かにキッカケはミスコンに参加したことだけど、それよりもグレイシーが「今まで知ろうともしなかった世界を知ろうとしたこと」「渋々始めたことを、周囲の人達の気持ちを素直に受け入れたことで、最終的に自分の意思でやり遂げるようになったこと」が重要で、これはミスコンとか美しさとか関係なく、人として内面が成長したということだと思います。
ミスコン終わったら下品な女に戻ってるじゃんとか、そんなことは関係ない(にしても下品だけど)。元々、お上品な女になって幸せを掴むことが目的ではない。

グレイシーは中盤、「友達ができないのは仕事が忙しいせい。恋人がいないのは必要ないから」と言っていますが、結局のところグレイシーは、必要ないというより「自分を偽らない限り人と上手くやっていけるはずがない」と諦めていたんですね。
でも、ミスコンを通して他の出演者もただのお上品な人間じゃないこと、輝く世界にいる人達もただ恵まれてこの場にいるわけではない、自分と同じで酒を飲んで騒ぐし、悩みもあって、同じ人間なんだと実感します。
「こんな自分じゃ恋人なんて」「素のままで気の合う友達なんて、いない…」こういう人って、実は結構いるんじゃないでしょうか。

本作は、グレイシーの成長物語なのは間違いありません。が、「望むものは自分を偽らないと手に入らないのか?」というのが本来のテーマであり、美しさを手に入れるのは、あくまで肉付け的な意味合いしかない気がします。だってグレイシー、最後まで下品さ隠しきれてませんからね。笑

人に合わせて自分を偽ることよりも、「知らないことを知ろうとする努力」、「知らない世界に飛び込む勇気」が人付き合いに、ひいては人生にとって大切だということを教えてくれる本作でした。

で、褒めといて☆3.5って低くね?と思われるかもしれませんが…
他のサイトの説明見てもポリス・コメディとかサスペンス・コメディとか色々なカテゴライズされてるけど、ポリス感もあまりないし(グレイシーのFBIとしての有能さは取って付けた程度の扱われ様)、サスペンス要素はほぼない(割と序盤から犯人隠す気ナシ)、コメディも特に…笑えたかと言われると別に…ていうか今思い返しても笑う要素どこ??
いつも思うんだけど、カテゴライズは監督等ちゃんと製作者側の人間に訊いてます?製作者側が決めるべきだと思うんですが。全然「そこじゃねーだろ」と言いたくなるようなカテゴリに分類されてる映画、だいぶ多いですよね。そのせいで評価が下がることもあるから、カテゴライズは重要だと思います。CMやポスターなんかも重要だけど。

少なくとも日本ではあまり評価が良くなかったようですが、宣伝の仕方に問題があったんじゃないかなぁと。若干サラッとし過ぎていた感じはありますが、他の映画の評価具合を見ていると、☆4とまでは言わずとも、☆3.5はいってても良いような気がします。
宣伝やあらすじの書き方でシンデレラ・ストーリーと勘違いした人々が「結局最後まで変わってねーじゃん」の低評価は結構多いのではないかと。

主人公がキラキラ意識高い系女になるまでの王道ストーリーではないということを頭に入れた上でのご視聴をオススメします。多分この勘違いで女性の視聴が多かったのではないかと思いますが、もちろん男性にもオススメ。

alala