劇場公開日 2023年12月8日

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「脚のない鳥」欲望の翼 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5脚のない鳥

2021年4月11日
PCから投稿

BBCが2016年に企画した「21世紀の偉大な映画ベスト100」の2位に花様年華が入っていた。(1位がマルホランドドライブ、3位がゼアウィルビーブラッド)。名画100選のようなモノはよくあるし、たいてい定石に鼻白むだけだが、この選は、2000年以降の縛りに加えて、世界じゅうの映画批評家が選んでいることから、他にはない固有性があって、興味深いものだった。

個人てきには、ウォンカーウェイを、すごく好きなわけじゃない。
おそらく若いころは、もっと寄せていたと思うが、大人になり、歳をとると、様式ある表現方法に、まどろっこしさを感じるようになる。
わたしは、若いころは、フェリーニもタルコフスキーもアントニオーニもヴィスコンティもゴダールも、そのほか多数の巨匠を、興味をもって楽しく見たが、歳を食ったらもうアベンジャーズのほうが楽しい──わけである。

ただ欲望の翼は、若いころに見て、明解に覚えている。覚えている理由は、エピローグ直前の列車内の会話。レスリーチャンとアンディラウが話している。チャンが脚のない鳥の話をしようとすると、ラウがそれをさえぎって「知ってるさ、女には受ける話だろうよ、おまえが脚のない鳥のつもりか?おまえなんかただのゴミさ、なにが鳥だよ、鳥ならどっかへ飛んでけよ、さあいけよ早く」と言うのである。

要するに、映画内で、抒情というかポエムに落とそうとして、それを映画内で否定するわけ。
この局で、脚のない鳥のエピソードがさえぎられずに話されていたら、欲望の翼は凡庸に終わっていた、と思う。

映画のなかで、主人公が、印象的なことをモノローグ風に語ることがあります。数多の日本映画もそれが好きです。
そんなときのセリフは「脚のない鳥」のように象徴的で、現実的ではなくて、実用的でもなくて、ただ単に映画内のカッコいいセリフとして、ポエムのような位置づけになっているものです。
そんな主人公のセリフを「なに言ってんだ、アホかおまえ」と全否定している映画を、探してみてください。
わたしはこれ以外に見つけてません。

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津次郎