劇場公開日 1994年2月26日

「血の通った神になる事」シンドラーのリスト カメさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0血の通った神になる事

2019年4月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

個人評価:4.7
中学生の時に、この映画を学校で見、難しいという記憶しかなく、そしてアカデミー賞作品賞は難しい映画がとるのだと浅く理解していた。
愚かにもそれ以降、本作を見る機会を持たなかった自分を恥じる。
常にエンターテイメント性に溢れる作品を世界に送り出し、大多数の人間が喜ぶ映画を作り続けたあの時代のスピルバーグが、なぜこの異色作を世に出したのか。
それは忘れてはならない歴史の真実を映画という形で記録に残し、そして世界中に伝える。
世界が認める監督がこの題材を描き、より多くの人に伝える。本当に意味のある行為だと感じる。
またスピルバーグ自らが作ったシェアー財団。ホロコーストを生き抜いたユダヤ人の生きた声を記録し続ける財団とその意味。今を生きる人間が後世に伝える義務がある歴史。それをアメリカ系ユダヤ人でもあるスピルバーグ自身が担っている。
劇中シンドラーに対して向けられたユダヤの言葉「1人を救える人間は世界を救える」。
ホロコーストが真実であれば、600万人のユダヤ人が虐殺されたこの地。その人達全てを救う事は出来ないが、せめて関わった目の前の人だけでも救いたいというシンドラーの考え方。目の前の命を1つでも救う為にとった数々の行為。それは人間でありながら、神に近い行為であると感じる。
ユダヤ人が信じる神は、救いを願ったであろう信者に何をしてくれただろう。人々は虐殺され、何もしてはくれやしない。
敗戦後に工場の人達にむけ掛けた言葉と、群衆がシンドラーに向ける眼差し。それはキリストを見る眼差しに近い物があった。
最後のポーランドで生き残ったユダヤの末裔達がシンドラーの墓に石を置く描写。それは架空の神ではなく、彼らがしっかりと感じる事ができる、血の通った神であると考える。

カメ