劇場公開日 2012年11月3日

「ごっこ遊びとガチ喧嘩の狭間で」カリフォルニア・ドールズ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ごっこ遊びとガチ喧嘩の狭間で

2023年2月16日
iPhoneアプリから投稿

試合シーンがとにかく長い。冗長、退屈といった意味ではない。見終えた後でその長さにようやく気がつく、そういう長さ。劇中でのカウントアップが現実の時間経過と相即している。この長丁場を息切れすることなく、いやむしろ徐々に勢いを上げながら描き切ったのはすごい。これが凡庸なスポーツ映画であれば、時間経過による緊張の弛緩を恐れてダイジェスト演出に逃げたことだろう。

「プロレス的」という文系にはお馴染みのレトリックが示すように、プロレスの世界は基本的に不正とか忖度とか場外乱闘とかいった反スポーツマンシップ的な要素を、その場にいる全員が反スポーツマンシップ的だと理解したうえで、あえて理解していないものとして振る舞うことによって成立する知的でセンシティブなスポーツだ。

しかし一方で試合は加熱する。あくまで清く正しい主役として戦うカリフォルニア・ドールズも、悪役トレド・タイガースのあまりの暴虐ぶりや、それを露骨に看過し続ける審判にプリミティブな憤懣を募らせていく。

やがてそこにはごっこ遊びとガチ喧嘩の間を危うげにゆらめく緊張空間が立ち上がっていく。それがそのまま試合という物語のサスペンスとなって受け手を惹きつける。30分にもわたる試合描写にもかかわらず少しの中弛みも起きない理由はここにある。知らず知らずのうちに画面の中に感情移入してしまい、悪徳審判がカリフォルニア・ドールズに思い切りプレスを食らうシーンなどは見ていてかなり爽快だった。

因果