女と男のいる舗道

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劇場公開日:

女と男のいる舗道

解説

「勝手にしやがれ」のジャン=リュック・ゴダールの長編第4作で、前作「女は女である」に続き、公私にわたるパートナーのアンナ・カリーナ主演で撮りあげた作品。パリのとあるカフェで、夫と人生を語り合った末に別れることになったナナ。家賃も払えないほどの生活に陥ってしまった彼女は、街で男を誘い売春するように。やがてナナは、見知らぬ男と関係を持つことに無感覚になっていく。「シェルブールの雨傘」などの名作曲家ミシェル・ルグランが音楽を手がけた。2019年2月、「ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち」で4Kデジタルリマスター版が上映。

1962年製作/84分/フランス
原題:Vivre Sa Vie
配給:ザジフィルムズ、ハピネット
劇場公開日:2020年2月23日

その他の公開日:1963年11月19日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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(C)1962.LES FILMS DE LA PLEIADE.Paris

映画レビュー

5.0安らかに眠ってくれるな

2024年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

知的

ジャン=リュック・ゴダール監督作品。

ナナを救うのは「死」のみか。

舞台女優を夢見る彼女の行きつく先は娼婦である。男は性欲の解消のために、ナナは金銭を得るために、そんな利害のために貸される彼女の身体。それは絶えずナナという実存が死に続けることかもしれない。

だから劇中に登場する『裁かるゝジャンヌ』で彼女は涙するのではないだろうか。死によってしか救済されないジャンヌの境遇を自分に重ねてしまうから。

エピソード11でナナは見知らぬ老人と哲学談義をする。
老人は言葉は愛と同じで、それなしに生きることはできないという。そして人間は書くようには話せないから言葉を裏切るともいう。ではなぜ表現するのか、ナナは疑問に思う。それに対して老人は考えるために話をするのだと答える。

老人「話すことはもう一つの人生だ。…別の生き方だ。…話すことは話さずにいる人生の死を意味する。…話すためには一種の苦行が必要なんだ。…人生を利害なしに生きること。」
ナナ「でも毎日の生活には無理よ。利害なしに。」
老人「だから人間はゆれる。沈黙と言葉の間を。…それが人生の運動そのものだ。…日常生活から別の人生への飛翔。…思考の人生。…高度の人生というか。…日常的な無意識の人生を抹殺することだ。」

ナナは愛を裏切り、裏切られる。それはナナが死に続けることかもしれない。絶えず死にゆく自身の話をナナがすることーそれは映画によって描くことと同等であるーは傷を開く行為だ。けれどそれのみがナナに再び生を与える「奇跡」の儀式である。

言葉でもって話をすることは特別な儀式であると同時に誤りをもたらし、嘘にもなり得る。老人とナナもそれに言及している。

ナナ「嘘をつきやすいこと?」
老人「嘘も思考を深める一つの手段だ。…誤りと嘘の間に大きな差はない。…言葉が見つからないことへの恐怖。」
ナナ「言葉に自信が持てる?」
老人「持つべきだ。…努力して持つべきだ。…正しい言葉を見つけること。…つまり何も傷つけない言葉を見つけるべきだ。…つまり誠実であることね。…“真実は誤りの中にもある”。」

ナナの語られる人生は誤りかもしれない。夫の元から去り、夢を希求して、結局娼婦になってしまったのだから。でもそこにはナナの実存が賭けられている。それならばそこには真実が確かにある。人生について。生について。愛について。

ナナ「愛は唯一の真実?」
老人「愛は常に真実であるべきだ。…愛するものをすぐ認識できるか。…20歳で愛の識別ができるか。…できないものだ。…経験から“これが好きだ”と言う。…あいまいで雑多な概念だ。…純粋な愛を理解するには成熟が必要だ。…探求が必要だ。…人生の真実だよ。…だから愛は解決になる。…真実であれば。」

ナナは絶えず話していこうとすることで、もう一つの人生を生きようとした。そして真実の愛を探そうとしていた。
しかしナナは死んだ。22歳の彼女は、愛を経験主義的にしか認識できず、形而上学的な純粋な愛には到達できなかった。

物語は、ナナの人生は、ここで終わる。映画として。

いや映画だから、ナナはまだ死んでいない。
ナナの人生を光学的に記録した映画を私たち鑑賞者がみる。時空間を超えて、何度でも。そして何度でもこの映画について話す。この絶えず映画に働きかける運動が、ナナを何度でも蘇らせる。
それは残酷なことかもしれない。ナナを絶えず死なせ、生かすのだから。

だからゴダールよ。私は何度でもあなたを蘇らせる。あなたが記録して語った人生を、絶えずみて話すことで。レオス・カラックスよろしく最大の敬意を込めて「安らかに眠ってくれるな」。

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abokado0329

4.0原題の意味

2023年12月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

この映画は、じわっと浸透して、あとに残る。女優さんの表情の見せ方が上手くて印象に残るせいか…。

章ごとに区切られて表現されている彼女は、それぞれ微妙に違う顔を見せてくれ、彼女の心境の変化やいろんな側面を伺わせてくれる。悩みなが少しずつ変わっていく。見ていると、だんだん応援する気持ちにさせられてくる。

ここまで書いて、ふと気になり原題をチェックしてみる。だって、男と女の舗道、って…?場面を切り取った描写としては間違っていないけれど、なんかいまいち。
原題は、人生らしく生きる、きままに生きる、というような意味らしい。
そうそう、それだわ。[生き方]がテーマなのだわ。

彼女は彼女なりに、自分らしさに執着し、浅はかだとも言えるが、ある意味では真面目に生きていた。ひたむきさや、考える力があり、そこには今後変わっていく可能性が秘められていた。

でも…残念ながら、彼女の人生は、不条理な結果に終わる。
こんなささやかな人生を、あっけなくバサッと切り取ってしまうなんて、厳しいね。

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あま・おと

2.5女版「勝手にしやがれ」

2023年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

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parsifal3745

3.5【”零落。そして儚く短き、美しき女の人生。”哀しい物語であるが、アンナ・カリーナの抑制した演技が作品に趣を醸し出している作品。】

2023年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

■女優を夢見て夫と別れ、パリに出るも、希望なきレコード店員を続けるナナ(アンナ・カリーナ)。
 つい男に体を許して代償を得た彼女は、やがてヒモつきの娼婦となり、無感動の日々を送る。
 そんな中で出会った若い男を愛し始めるナナだったが、売春業者に売り渡されることになる。

◆感想

・夫と別れるファーストシーンから、女優を夢見るナナは厳しい現実の中、徐々に困窮していき、身体を売るようになるのだが、猥雑感は一切ない。

・場末の映画館で映画を観ながら涙するナナの表情。

・だが、彼女は零落しつつも哲学について熱く語るのである。彼女は娼婦でありながらも心までは売っていない事が分かる数々のシーン。

・ミシェル・ルグランによる哀調を帯びた音楽も、哀しきナナの姿をくっきりと浮き彫りにしていく。

<ラストは、実に切ない幕切れである。”女と男のいる舗道”という映画タイトルは、このシーンから取ったのだろうか・・。>

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NOBU