劇場公開日 2000年9月15日

「吉永小百合と渡哲也 この二人が、実は本作の30年前結婚しようとまでした恋仲であったのです」長崎ぶらぶら節 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0吉永小百合と渡哲也 この二人が、実は本作の30年前結婚しようとまでした恋仲であったのです

2020年10月3日
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鑑賞方法:DVD/BD

10歳くらいで長崎の花街丸山に売られて来た娘
それから40年後、愛八という名前の50歳くらいの年増芸者になってから、数年間の物語です

吉永小百合 55歳、渡哲也 59歳

この二人が、実は本作の30年前結婚しようとまでした恋仲であったことを知らずに観たなら、本作の本当の醍醐味がなんであったのか、本当のテーマとは何であったのか、少しも理解できないと思います

34年前の1966年、二人は「愛と死の記録」という作品での共演から相思相愛の仲に発展したのです
二人は同年の「白鳥」、翌1967年の「青春の海」の都合3作品で共演しました
しかし当時既に大スターであった彼女は父親を始め周囲の大反対にあい、とうとう結婚を断念してしまったのです

渡哲也がその後一般女性と結婚してしまうと、吉永小百合は、泣き暮らしたといいます

そして、ふた周りも年上のテレビ局の離婚経験のある男性と突然結婚してしまうのです

これは映画関係者や映画ファンなら、有名なお話です

それから約30年後、二人は本作の2年前の1998年「時雨の記」で、また共演を果たします
本作はそれに続いての、またもその二人の共演です

この因縁を知っていれば、この二人の間に何か有ることが、劇を超えて迫ってくる事が分かると思います

是非、本作は「愛と死の記録」をまず観た上で、「時雨の記」と本作をセットでご覧になって頂きたいと思います

この二作品はプロデューサー、監督始め製作陣の全員が、そのことを知っての上で配役され、脚本が書かれているのです
そしてもちろん当の本人達も

「時雨の時」は吉永小百合の持ち込み企画で、熟年の男と女の二十年ぶりの再会がふたりの心に火をともしたという内容です
彼女が長年愛読してきたという原作の映画化権を、彼女自身が版権元と交渉して買取ってまでしています
その上で相手役に渡哲也を彼女自身が指名しているのです
そしてまた渡哲也もそれを受けて立ち、この二人で映画製作を渋る東映社長を説得に行って、その作品の製作を実現させたものでした

本作でも、二人はそれ周囲が何を期待しているのかを百も承知で受けてたっているのです
というか本人達が何かを期待していたのかもしれません

30年後・・・
10年後なら、まだまだ生々しい
20年ならまだお互いに40代
顔を合わせてしまえばどうなってしまうか分からない・・・
しかし30年後なら?
もうお互いに初老に入ってしまいました
もうこの歳で色恋もなかろう
そしてもうすぐ21世紀、時代も変わろうとしているのです
また会ったからといって、どうかなることもない

いや、もしかしたら?
ひょっとしてどうかなってしまうかも知れない・・・

その危うさが、劇中の中の二人も、それを撮影する製作陣も、それを鑑賞する観客にもハラハラとさせるのです

脚本もまた、そのギリギリの崖っぷちの上を歩かせるのです
ぶらぶら節を探す一泊旅行のシーンは正にそれです

そしてまた吉永小百合は実生活で子供を産んでいないのです
それもまたお喜美と雪千代のお話と絡ませてあるのです

本作の2年前の「時雨の記」は吉永小百合からの、30年後のラブレターだったと思います
そして本作は、渡哲也からの返信だったのだと思います

本作の劇中で二人は、一つ布団で抱き合いながらも、男女の中にはなりませんでした

ラストシーンは、「抱いて」という台詞ともに幻想的な蛍の群舞で終わるのみです

結局、30年後の吉永小百合のラブレターへの返事は、今はもうただの友人だということを確認したというのが結論でした
それが本作であったように思えました

本作の中で愛八の吉永小百合は、古賀の妻に頭を下げて何も無いことを態度で示し、いしだあゆみが演じた妻もまたそれを信じて帰るのです
そこが本作のクライマックスだったように思いました

今日は2020年10月
本作からさらに20年が経ちました

吉永小百合と渡哲也が結婚を断念して、いつしか50年もの歳月が過ぎ去ってしまいました

渡哲也はつい先日の2020年8月10日にお亡くなりになりました

それだけの時間が過ぎ去りました
二人の胸の奥底に押し込められた想いは、とうとうそれっきりとなりました
長い長い50年に及んだ恋愛も遂に閉じられたのです

音丸役の内海桂子も、2020年8月22日に亡くなられてしまいました
彼女は、愛八の運命を予感させる大事な役でした

この映画に出演された二人の訃報に接して、本作を観ずにはとてもおられません

そして吉永小百合と渡哲也
この二人の悲恋の因縁を頭に、もう一度本作を観たとき、今渡哲也さんの訃報に接して、吉永小百合さんの胸中に一体何が去来しているかを考えざるを得ないのです

それは本作のラストシーン
そのものなのでは無いでしょうか?

あき240
iwaozさんのコメント
2022年10月1日

貴重な因縁を解説頂きありがとうございます!m(_ _)m
全く知らずに観て、貴重な歴史の物語だとしか思いませんでしたが、
皆の鬼気せまる演技に非常に感動しました。
この因縁を踏まえて、「愛と死の記録」「時雨の記」を観て
再度、見直してみます!
感謝致します。m(_ _)m

iwaoz
talismanさんのコメント
2021年5月8日

そういう因縁とは!知りませんでした!唄探しの旅で、一つ布団の中で寝たけれど男女の仲にならなかったシーンは、強く印象に残っています。

芸者役の内海桂子、言ってましたね。芸者はまともな死に方なんてできないよ、と。

talisman