劇場公開日 1984年12月15日

「むぅ……配分が肌に合わない。」ゴジラ NandSさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0むぅ……配分が肌に合わない。

2023年11月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

寝られる

映画.com用
前提として
・ゴジラシリーズだと、『ゴジラ』(1954)と『ゴジラ2000 ミレニアム』『シン・ゴジラ』は視聴済。
・橋本幸治監督の他作品は未視聴。
・中野昭慶特技監督の他作品は未視聴。

 核の象徴や恐怖の対象ではなく、一匹の生物として"ゴジラ"を描きなおそうとした作品。

 まずはゴジラ。今回は悪役然としたデザイン。ここから従来の描き方とは違うのだな、ということが理解できる。
 あくまで恐竜のような古代からいた生物で、帰巣本能もあれば痛みもある。寄生する生物もいるし、放射熱線を撃つのも防衛本能。なるほど、納得はできる。
顔の表情とか、それに伴う技術は素晴らしい。表情が豊かだから、結果的に人間みたいなゴジラに見える。
 終わり方などを鑑みると、これらの選択自体は間違いではないな、と思う。
 しかし、登場までの前振りが少なすぎる。人類皆が"ゴジラ"というものを知っている世界観なので、登場したときの盛り上がりがあまりにも薄い。
 出現すると、どうヤバいのか。あいつが歩き回るだけで日本はどうなってしまうのか。そんな描写が足りなさ過ぎた。前作から9年ぶりに制作された作品。当時の人でも、ゴジラ=恐怖のイメージは薄まっていたんじゃなかろうか。どうにも物足りない。
 何より、人の亡くなる描写がほぼ無い。序盤に出てくる巨大ノミの方が圧倒的に怖い。狙って消したにしても、ゴジラに対する危機感がイマイチ伝わらなかった。初めから好きにさせちゃえばよくない? 街の被害はすごいけども。

 今作では、アメリカとロシアが日本に核を撃ちこもうとする流れがある。要人たちの会議、それから首相が説得するまでの流れはめっちゃ面白い。当時だからこそのメッセージ。
 アメリカとロシアがゴジラを攻撃しようとする理由は分かる。納得もできるし、「本当に怖いのは人間」みたいなメッセージも受け取れる。
 それはそれとして、日本がゴジラをどうにかして殺さなくてはいけない実感が湧かなかった。

 人間側もちと微妙。
 主役の記者である牧、船の生き残りである奥村、その妹の尚子、そしてゴジラを生き物として捉える林田博士。面白い要素がかなりあるのに、あんまり盛り上がらない。変に恋愛要素を入れなかったことには好感。
 官邸会議、空気がぼんやり。なんだろう、このモヤモヤ感。ゴジラに対する危機感が薄くて、なんの会議をしているのか分からなくなってくる。やっと危機感を感じれたのは、ゴジラが真上を通過したときだけ。
 でも、首相はめちゃくちゃ良かった。あの小林桂樹さんの苦虫をつぶしたような表情で、常に周りの意見を聞き、自分の意思を米露の首相にまで伝える。一番の苦労人ではないかしら。ゴジラが動かなくなった時の安堵した表情にも共感が持てる。こういう人が「ゴジラを殺す」決断をするから説得力が生まれる。あぁ、国を守るってこういうことか。

 ストーリーは基本的に初代と変わらず。ゴジラが出てくるから、それに対する対処方法を考え、実行。しかしうまくいかない。最後は、意外な方法でゴジラを葬る。
 あえて違うところを挙げるならば、みんながゴジラの存在を知っていること、核爆弾がゴジラの回復に使われたこと、だろうか。ただ、初代から今作までの間の作品は観ていないくても、唯一の特徴みたいなところは分からなかった。多分、ゴジラが周知されてる世界線は何個もあっただろうし、核を使った結果ゴジラが回復する流れもいくつかあったと思う。明確な違いは見出せない。

 さて、特撮技術。
 まず、前述したとおりゴジラの表情が良くできている。着ぐるみ自体の進化とでも言うべきだろうか。そこにメリット・デメリットはあるものの、素晴らしいと感じた。
ミニチュアの建築物、それらの破壊、そしてゴジラとその足元で逃げ惑う人間たちという合成(?)もかなり迫力があって楽しかった。東宝特撮すげぇ!ってなったところ。

 しかし、対ゴジラ兵器"スーパーX"がどうしても蛇足だったように見えてしまう。というか一番気になった部分かもしれない。単純にこの作品に合わない。
 まず、出てくるまでのワクワク感が一切ない。そう見せたくなかったのかもしれない。「人間の方が悪なのでは?」というテーマを見せるための装置だったのかもしれない。
それでも、せっかく出そうとしているし、政府の要人が待ち望んでいるような兵器なら少しはワクワクさせるような演出つけてもいいのでは? と思う。
 特撮技術はそもそも秀でているから、そこらへん凝っても面白かったはず。
 あとレーザービームを撃てるハイテク技術なのがもったいなかった。ビジュアルとか、特撮としてのクオリティは非常に良い。でもイメージでいうと、「核より強い武器」である。なんならゴジラも撃ってる。
 結果的に核への恐怖感まで落ちている。今作のゴジラ、ただのミサイルとか戦車とかで軽くダメージを食らうぐらいの防御力でも良かったんじゃないだろうか。でもそこまで行くともはや"ゴジラ"とは呼べないのかな……うーん。

 武田鉄矢さん……客演要るかぁ?? 演技が問題なのではない。実際、面白い演技しているなぁとは思って観れたし。でも要らない。
 こういう客演に限らず、要らないシーンが全体的に多いと思ってしまう。おまけ以外の理由が見つからないシーンが多い。「それならもっと、こういうシーン観たかったなぁ……」っていう要素たくさん。これは観客のわがままですね。

 (平成初期の)東宝特撮、一匹の感情を持った生物としてのゴジラ、記者たちのヤジ馬的悪、核への呼びかけ。こういった要素が好きならこの作品はオススメできるかも。
 良いなと思える要素はあれど、どうにも配分が肌に合わなかった。そんな作品。

NandS