あ、春

劇場公開日:

解説

エリート・サラリーマンの前に、死んだと聞かされていた父親が突如現れたことから始まる騒動を描いたホーム・コメディ。監督は「ポッキー坂恋物語 かわいいひと」で総監督を務めた相米慎二。村上政彦の「ナイスボール」を基に、「ラブ・レター」の中島丈博が脚色。撮影を「学校III」の長沼六男が担当している。主演は、「らせん」の佐藤浩市と「静かな生活」の山崎努。第11回東京国際映画祭特別招待作品。

1998年製作/100分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1998年12月19日

ストーリー

一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、にわかには父親だと信じられない紘。だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親に相談すると、笹一はどうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言うではないか。笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。ついに堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマンに暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは、休まることがない。そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だ、と告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。病院の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。しばらくして、ついに紘の会社が倒産した。しかし、今の紘には、笹一のように強く生きていける自信がある。そしてその日、笹一が息を引き取った。紘は死に目に会うことは叶わなかったが、笹一のおなかに、彼がこっそり温めて孵化したチャボのひなを見つける。数日後、笹一の遺体を荼毘に付した紘たち家族は、彼の遺灰を故郷の海に撒くのだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0生と死が交錯する“あの瞬間”で何度も、何度も泣いています

2020年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

楽しい

「相米慎二監督といえば?」という問いかけに、第1候補、第2候補としては出てこない作品でしょうか。と言いつつも、私的リピート率1位の作品。大好きです。「音信不通だった父が帰ってくる」という普遍的な題材だからこそ、いつ見ても飽きないという点もあるんですが、生と死が交錯する“あの瞬間”を見たいがために、度々再生ボタンを押してしまうんですよね。そして、大体泣いてます。展開は読めているのに……。

山崎努演じる“父”のハチャメチャっぷりが、とても微笑ましいんです。帰省(=寄生)された人々からしたら、たまったもんじゃないないんでしょうけど(笑)。最高に身勝手なのに、どうにもこうにも憎み切れない。そんなはた迷惑な存在が、沈みかかった船(=家)の帆をピンっと張っていくのです。

脇を固める女優陣の芝居がとにかく素晴らしい。斉藤由貴の「脆さ。感情を溜め込んだ末の爆発力」、紫煙をまとう富司純子の「したたかさ」――藤村志保、三林京子を含め、男たちを見つめる女性たちの視線が良いんです。特に斉藤由貴演じる“妻”の人柄を表す描写が秀逸。「寝ている夫の腹を噛む」「絶滅寸前の動物たちを気に掛ける」。何気ないシーンなんですが、見るたびにくぎ付けになってしまいます。

余談:三浦友和&余貴美子が夫婦役で出演しているんですが、2人のやさぐれ感が半端なくてですね……もしも「帰省先にいたら嫌な人」ランキングなんてものがあったら、かなり上位に食い込むと思います。

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岡田寛司(映画.com編集部)

3.5【人間の生命の死と生を見事に喝破した作品。且つ男の愚かしさを許容する、菩薩の如き女性達の懐の深さと、逞しさと優しさを描いた作品である。】

2023年2月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、VOD

楽しい

知的

幸せ

ー 私は、相米慎二監督作品は「台風クラブ」をDVDで鑑賞しただけである。
  で、一番驚いたのはこの方が逝去された年齢である。僅か53歳である。
  森田芳光監督が60歳で急逝された際にも驚いたが・・。
  だが、(殆ど作品を鑑賞していない青二才が言う事ではないとは重々承知の上で、)私のようなものでも、相米慎二監督のお名前は知っている。
  短き人生で、今作を含め、その後の邦画に多大なる影響を与えた事実は厳然として残るのである。立派なる人生であると思います。-

◆感想

・今作は、重いテーマだと見せつつ、愚かしくも愛すべき男性佐藤浩市演じる韮崎紘や、彼の亡くなっていたと母(富司純子)に言われて育って来た、マアマア一流企業と思われる会社では働く男(佐藤浩市)の前に)自由人である父(山崎努)が現れる処から物語は始まる。
ー オロオロする、佐藤浩市演じる長男の姿に対し、母は淡々と真実を話し、男の妻(斉藤由貴)も、驚きつつもその事実に向き合って行く。-

■今作の白眉のシーンは、山崎務演じる男が、病院のベッドで事切れた際に、お腹の上で温めていた雛が生まれるシーンであろう。
 正に、死と生を見事に描いたシーンである。

<今作を鑑賞すると、多分、相米監督が意図した胆の据わった女性に対し、事実と向き合った男性のオロオロした態度が可笑しき作品である。
 多くの作品に描かれているように、男とは普段はエラソーにしているが、いざとなると女性の方が事実を正面から受け入れたり、過去の出来事をフツーの顔で隠していたり・・。
 男尊女卑思想を真っ向から否定する、故相米監督の温かき視点が秀逸であると思った作品である。>

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共感した! 3件)
NOBU

3.5錚々たる面々である・・・(何故か再見)

2022年4月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

楽しい

幸せ

新人女優を育てる事で定評のあった相米が、何もしなくても動いてくれるような俳優、女優陣に自身のスワンソングを謳わせたような作品である。厳しさはなく不穏な揺らぎもない・・・。おそらく山崎努に自身を重ね自らが何者で、誰かの為に自分は生きているのかを問うた作品である。

ちょうど約1年前に見たにも拘わらず、全く記憶に残っておらず見直してはじめてあ~なるほどと膝を叩いた作品。このこれだけの役者陣で何事もなかったような日常生活が描かれた作品を余り他に知らない。(2023/3/6、U-NEXT)

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mark108hello

4.0最も印象に残っているのは、病院の屋上で歌うシーン。 とかく豪華な役...

2021年3月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

最も印象に残っているのは、病院の屋上で歌うシーン。

とかく豪華な役者陣が、それぞれの個性を発揮してすばらしい。
富司純子が山崎努をあしらうときの、あの表情がたまらなく上手い。
良家のお嬢さんぶりを発揮した斉藤由貴もさすが。

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まこべえ
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