劇場公開日 1956年3月18日

「日本中が赤線地帯になっただけなのかも知れません」赤線地帯 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5日本中が赤線地帯になっただけなのかも知れません

2019年10月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

これもまた溝口ワールド
リアリズムを極めた映像の中に普遍的な人間の有り様が撮されています
京マチ子の存在感が群を抜いています

1956年の作品、劇中で難度も廃案になる売春禁止法は結局可決されて翌年施行され、このような赤線地帯は本作2年後から廃止となったのはご存知のとおり
ですから赤線地帯は公にはこの60年以上昔に無くなったことになっています
本当にそうでしょうか?
本作から60年以上たった21世紀の私達はその答えを知っています

確かに北品川は今では普通の何処にでもある商店街に綺麗さっぱり跡形もなくなっています
同様に木場と東陽町の間の洲崎は今では普通の街ですが、良く見ると良く古い民家を見ると本作に登場したようなお店のタイル張りの風情などの微かな痕跡が見られる程度です
土地の由来を知らなければ気付きもできないでしょう
では、吉原は?
ソープランドのメッカであるのは誰もが知っています
本作の世界は形を変えただけで生き延びているのです
ごく一部にだけ?
とんでもない
歌舞伎町や日本中の大きな繁華街の飲み屋街では表だった売春はないものの、ネオンの洪水の中で酔客をガールバーとかに誘う女性で溢れています
その光景は劇中の光景と大して変わらないものです
それどころかネットを見ればデリヘルもいくらでも呼び放題です

売春は禁止されるべきことです
人身売買はもってのほかです
赤線地帯は廃止されることは現代では当然のことです

とかろがその結果は不道徳が日本中に薄く広く広がってしまっただけのようにも思えます

本作に描かれたような不幸な境遇の女性達は根絶などされてはいません
それどころか本作と同じような理由で同じような不幸の中にいる女性達は、本作当時の何十倍にももなっているように思えます

つまり明確な境界線を失って、どこからが売春なのか不明瞭なことになっただけなのです
それが結末です

不幸な境遇に堕ちた女性達が閉じ込められた明確な明示的な赤線地帯は消えたとしても、男と女がいる限りそのような仕組みが無くなることなんてことは未来永劫無いのかも知れません
その現実のなかで私達はどこかで折り合いをつけて、これからもこの境界線の無い地帯をさ迷うことになるのでしょう
衝撃的なラストシーンのように21世紀の今日もまた赤線地帯は拡大再生産されているのです

日本中が赤線地帯になっただけなのかも知れません

あき240