劇場公開日 1956年3月18日

「リアル感が凄まじい。資料価値あり」赤線地帯 osanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5リアル感が凄まじい。資料価値あり

2018年5月8日
PCから投稿

他の溝口作品にはない格別なリアルさがある。
浅草で生まれ育ち、父親は戦争で一儲けしようとして破たんし、姉は花街に出され、その姉の支援で生活し・・・、という溝口健二が売春防止法廃止に揺れる吉原を描く。

溝口リアリズムとはいっても、それまでの溝口作品はどこか「溝口が徹底的にリアルに創った作品」という印象がある。フィクションなんだから創られたものなのは当たり前だから、作った印象があるという表現は不適切ではあるが、対して本作はまるで「自然体で創ったらリアルになってしまった」というぐらいに、ノンフィクションのような錯覚を覚える。
それは、きっと実際にモチーフの多くは事実に基づいているのだろうからかもしれないが、やはり溝口監督自身の半生をなにかしら踏まえているからだろう。

黛敏郎の賛否両論のある音楽(私は賛成派)、売春防止法と赤線と、その赤線における供給者と需要者が生み出される環境、赤線で働く女とその家族の関係・・・・、この作品は歴史的な資料としても存在価値がある。

戦後という時代を一気にジャンプアップしてしまった日本人がジャンプで跨いだ「何ものか」を確認するためにも、特に戦後を知らない日本人が一度は観ておくべき作品だと思う。

osan