劇場公開日 1987年3月

「色褪せない戦場に放り出されたような臨場感」フルメタル・ジャケット うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5色褪せない戦場に放り出されたような臨場感

2023年10月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

キューブリックの映画は2本しか見ていない。
「シャイニング」「2001年」いずれも今日まで語り継がれる不朽の名画。でも、正直、娯楽作品としては純粋に楽しめないし、コンディション次第では熟睡してしまうほどの退屈な映画にも思える。

問題は、そのテンポにあるのだろう。基本的に長回しで、大げさな演出が入らない。それによって現場に緊張感が生まれ、観客はまるで事件の渦中に居合わせてしまった野次馬のような好奇心にとらわれる。

家の近所に救急車やパトカーが大挙押し寄せれば、誰だって様子を見に行くし、懸命に事態を把握しようとするだろう。断片的な情報がその場を飛び交い、なんとなく事態の方向性を理解したところで手を打って、その場を立ち去る。翌日の新聞でどうやらこれこれの事件だったらしいということを知るが、自分の見たものとの差異はいかんとも埋めがたい。

圧倒的にリアルな戦場空間を作り出し、そこに観客を置き去りにする。まるでベトナムに行ってきたような気分になり、報道されていることと差があることに驚く。そんな気分にさせてくれる映画だと思う。驚異的なのは、奥行きの隅々まで、セットが作りこんであること。この映像が30年前のものなのだ。どれだけお金かかってんだと思う。今なら、CGで補えるような細部まで、ちゃんと動いている。しいて言えば、画面がクリア過ぎて、逆にリアルじゃないように見えることがミスと言えばミスショットなのか。普通は見せたくないものに適当に汚しを加工して隠してしまうのだろう。霧とか、煙とか。

ただし、字幕で鑑賞したのだが、確実に放送禁止な4文字言葉が連発されるのはいかがなものか。これも戦場のリアルということで許されるのだろうか。特にR指定のような注意も見当たらないのだが、子供に見られたら、なんとなく気まずい。それも含め、新兵訓練は大幅に割愛してよかったんじゃないかと思う。

うそつきカモメ