劇場公開日 2006年11月18日

「愛国心を強要されたら」麦の穂をゆらす風 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0愛国心を強要されたら

2021年1月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 なんだか今(当時)の日本に照らし合わせてしまいました。この映画でのアイルランド独立運動は彼らの愛国心そのもの。結局は分裂してしまう義勇軍でしたけど、英国からの抑圧支配から逃れるという心は一つ。理不尽にも殺された仲間を見たら、黙ってはいられなくなりそうです。だけど、途中からその激しい感情もデミアン(キリアン・マーフィ)の冷静な交渉のおかげで納まりました。武器がなくても・・・

 過去のアイルランド史を学ぶのにも参考になる映画でしたが、それよりも現代の世界情勢をも見つめなおすいい契機となりました。支配者と被支配者、帝国主義国家と植民地、どこを見ても似たような関係があるものです。民族自決権は奥が深いものがあるので、ここでは敢えて論じませんが(というより、よくわかってない)、第三者の介入だけは納得できません。独立を勝ち得たとしても、独立戦争時に植え付けられた暴力性がそのまま残ってしまうのも彼ら自身のせいではないように思えるくらいです。最初は戦いたくなかったデミアンだって、周囲の暴力を目撃しなかったら武器をとることもなかったはずですから・・・

 映画の中では生爪をはがすという拷問シーンがとても痛々しくて、強烈な印象を残したし、シネード(オーラ・フィッツジェラルド)の家が焼かれるシーンに胸が苦しくなりました。それに屋根が燃えてなくなったのに、そこに住み続けようと頑張るおばあちゃん。祖国に住むことを主張する縮図ともなっていましたけど、支配者はなぜもこう弱い人たちをいじめるんでしょう。こんな光景を見せられたら暴れたくなっちゃいますよ。

 終始ドキュメンタリーのような撮影のおかげで感情移入しまくり。ジープ2台でやってきた英国兵士に攻撃を仕掛けるシーンでは、自分もあの場で銃を構えているかのような気分になりました。しかし、あの一連の状況下にあったら自分は真っ先に殺されるだろうにと、反省もしまくり。歴史、政治、法律と、正確な知識さえあれば渡り合える。暴力だけの報復の連鎖をどこかで断ち切ることができると信じて・・・

【2006年12月映画館にて】
2006年マイベスト

kossy