劇場公開日 2024年5月10日

Ryuichi Sakamoto | Opusのレビュー・感想・評価

全14件を表示

4.5Less is more. 死を前に教授がたどり着いた境地

2024年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

萌える

そぎ落とすほどに豊か。まるで禅の公案のような一見矛盾した感慨を、「Ryuichi Sakamoto | Opus」の坂本龍一のパフォーマンスを鑑賞して覚える。

本作については当サイトの新作映画評論の枠に寄稿したので、よろしければそちらもご覧いただけるとありがたい。そこで「情報をそぎ落とした純度の高いモノクロ映像だからこそ、観客がそれぞれの記憶を重ねやすく、それが一層豊かな鑑賞体験につながるのだろう」と書いた。音数が少ないから、余韻にじっくり浸ることができる。余白があるからこそ、記憶が色鮮やかによみがえる。そんなふうに言い換えてもいいかもしれない。

演奏が片手になった時に空いているほうの手、あるいは最後の音をひき終えた後の両手を、虚空で優美に動かす仕草。想像上のオーケストラを指揮している弾き振りのようでもあるが、残響に触れているような手つきを見ているうち、空気を揺らすバイブレーションが弱まっていくのを指先で確かめ、コントロールさえするかのように思えてきた。空間を満たす音の粒と、まさに全身で一体化しているようなイメージ。

“教授”の愛称でも親しまれた坂本龍一は、新しい音楽に出会う喜び、演奏に向き合い没入する楽しさ、余韻をいつくしむ優しさを教えてくれた。評には「音楽と映画のファンに遺したラスト・ラブレター」と書いたが、教授からのラスト・レッスンとしても大切に記憶にとどめたい。

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高森 郁哉

4.5音のしずくを体全体で受け止め心を揺らす

2024年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

坂本龍一が音響監修を務めた109シネマズプレミアム新宿で行われた試写会にて、本作に触れた。一年前に亡くなった坂本龍一がこのモノクロームの映像の中で確かに息づいている。映し出される彼の後ろ姿。鍵盤を押さえる指の動き。すっと息を吸って表現へと昇華させていく表情。本作に刻まれるのはピアノ一台を使った演奏シーンのみだ。インタビューや経歴紹介などのドキュメンタリー要素もない。セットリストには私が中学生の頃から何百回と聴き続けた楽曲も並ぶが、これほど体全体で一音一音を受け止め、荘厳に広がりゆく音色に心を揺らした経験は初めて。指先から繊細に生まれる音のしずくが、身と心をゆっくりと満たしていくのを感じた。観客のいないスタジオで収録されたコンサートゆえ、そこには拍手などの要素も一切ない。それゆえ教授の演奏が映画館の客席の私たち一人一人に深く親密に語りかけているように思えるのだ。これほど貴重な贈りものはない。

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牛津厚信

5.0もの凄い満足感

2024年5月18日
PCから投稿

ドルビーアトモスで鑑賞。多分教授のファンの方が見に行っている映画だと思うので、ここにいたるまでの経緯とかは、はしょって自分の雑感を書く。

ZAK氏の録音、ミックスがものすごく繊細な音、例えば鍵盤が沈んだ時の低音まで拾ってるので、そういうところは好き嫌いはあるのかもだが、2010年以降の「音の響き」自体を作品の一部として重要視して来た教授の作風を考えればマッチしているし、時に体力不足の影響からか、ほんの若干あるミスタッチも、ある意味そのような要素の一部として捉える事が出来、私的には気にならなかった。(ちなみにzak氏はambient kyotoというイベントのためにasyncのリミックスも担当されている)

それよりも教授が最晩年に残しておきたいと選んだ楽曲をその最晩年のアレンジで、映画館で聴いている満足感。一曲一曲の濃密さ、豊潤さに物凄い満足感を得た、とてもリッチな時間だった。

私にとって坂本龍一はもちろんYMO等80年代に名声を得たあの坂本龍一でもあるのだけども、その頃のイケイケの教授よりも実はalva notoらと共作しだした、エレクトロニカを経てからある意味新しい音楽の聴き方を手に入れた2000年代以降の彼の楽曲の方が、必死でポップミュージックやR&Bを取り入れようとして、もがいていた90年代よりも、彼が持っていた現代音楽の資質や教養と電子音楽出で経た経験の融合を作品として具現化出来ているように思っている。

もし90年代ぐらいで坂本龍一の作品を追いかけるのを止めてしまった人がいたとしたら、そこは非常にもったいない。私は彼の全盛期は最後の10年だったと本当に思っている。(それ故に、「ガンなのに命を削って作ってたから凄い」だとかそういう所でしか作品を語れないマスコミを残念に思っている。結局ゴッホやピカソの何が凄いのかわからないから、人生が壮絶だったとか言って、浪花節の物語として消費して評価しているのと同じだ。そういう部分にももちろん私は人間としてもちろん感動するが、それよりなにより、作品として凄いという事が残念ながら一般の人にあまり伝わっていないように思う。同様に現役で最重要の音楽家の一人であった事の方が何十年も前に戦メリ作った人、であるよりも遥かに凄いがそれを語れる音楽担当がマスコミにいない。未だに語るのはそこだけかよ、とうんざりする。)

映画に話を戻すと、鑑賞していて、なぜ私がこれほど坂本龍一の演奏、楽曲を素晴らしいと思うのか、というのを改めて理解する事ができた。例えば中期のシェルタリングスカイにしても、本当に必要な音の要素だけをミニマムに時間軸に置いていく、なにかミニマルな建築の柱が並ぶようにフレーズの繰り返しが続く楽曲の構造であるにも関わらず、その必要最低限の一音一音が同時に凄まじくエモーショナルに響く楽曲構成になっているという事が彼の楽曲を特別にしているのだと思う。大友良英氏も確か同じような感想を追悼等で述べられていたと思うが、その両方が同時に成り立っているという事が凄いのだと思う。

エモーショナルな楽曲を作ろうと思えば作れるが、それが坂本龍一の場合ドラマチックに楽曲が展開しているわけではなく(もちろん、ラストエンペラー等の例外もあるが)、限られた音の繰り返しによってなりたっているのだ。そしてそのような彼の資質が最初に述べた「音の響き」そのものを楽曲に取り入れるという引き算的な発想につながり、晩年のasyncやレヴナントのサウンドトラックに結実しているのだと思う。

そのような楽曲であるが故に、最晩年の一音一音の音を丁寧に響かせて聞かせる彼のピアノのスタイルが当然のように合うわけで、私にとっては本当に至福の時であった。本当に最後のライブを目の前で拝見するかのように一音一音を噛みしめて味わう事が出来た。映像、カメラワークも美しかった。終わってから、家に帰るまでの時間もずっと心が満たされていた。

今作に限らず、asyncのライブや彼のピアノ演奏を劇場のしっかりとした音響設備で定期的に聴けたらなと思った。あ、それと、教授が審査委員長だった大島渚賞を「セノーテ」で受賞された小田 香さんが撮影班に(メインの撮影担当ではないが)いらっしゃったことを最後のクレジットで知り、それもうれしく思った。

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moviebuff

4.5静寂さえも音として。

2024年5月16日
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鑑賞方法:映画館

興奮

幸せ

坂本龍一というひとは、ある種のカリスマだ。

けれど作曲家としてだけでなく、ピアニストとしての彼単体を扱う映画として、
この形での映像化はとても面白く、本質的であったように思う。

運よくDolby Atomosでの上映で観ることが出来たおかげで、
コンサート会場に居るような静けさ。
息をする音、席をずらすような音、
かすかな音さえも感じるほどに皆が静寂を保ち、
またその静寂さえも音として感じるほどに、凛とした映画だった。

音楽を楽しむ。
それは映画館で映画を観るひとつの理由足り得る。
値するような映画であればなおのこと。

そしての映画はそれに値するだけの演奏を楽しむことができる、
素晴らしいものだったと思う。

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ひなたんく

5.0濃密な100分間

2024年5月14日
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鑑賞方法:映画館

命を削る、という言葉がある。
私たち観客はまさに坂本龍一さんが削った命の一部を共有する。人生における濃密で至高の100分間を体験させていただいた。

坂本龍一さん。
このコンサート・フィルムを残してくれた方たち。
そしてDOLBY ATMOS ULTIRAのスクリーンで上映してくれた劇場の関係者にただただ感謝したい。

音楽に疎く、知識も技術も才能もない。
今度生まれ変わったら、音楽に携わった人生を送りたい。
そしてもう一度このフィルムに向き合いたい。と心から思った。

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大吉

4.5とてつもない感動があった

2024年5月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2023年3月に亡くなられた坂本龍一さん。22年9月、東京のNHK509スタジオで行われた最後のピアノソロコンサートが丹念に記録された。

自ら選曲した音楽人生を総括するが如き全20曲。闘病生活を続けていた龍一さんが最後の力を振り絞り演奏に臨んだ。

龍一さんとの真剣勝負。

緊張した。息もできなかった。
緊張して肩がガチガチになった。

紡がれる美しい音、微かな笑み、溢れる涙、ままならないことへの苛立ち、、、感情が激しく揺れた。観る自分も激しく揺れた。

そう、とてつもない感動があった。

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エロくそチキン2

4.5坂本龍一氏最後の演奏に触れる贅沢な時間

2024年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

まず最初に書いておきますが、これは坂本龍一氏の最後の演奏に触れる映像作品でドキュメンタリー映画ではないです。
それを勘違いして行って悪いレビュー書くくらいなら行かない方がいいでしょう。

とにかく美しく優しくも切ない音に包まれる2時間。

病気に向き合いながらも自分の芸術に向き合う教授の姿、最後の戦場のメリークリスマスには涙が出ました。

とにかく音が全ての映画なのでお値段はかかりますが行ける方は日本で一番音が良い映画館、坂本龍一氏が監修された歌舞伎町タワーの109シネマズまで出向かれた方が良いと思います。
没入できます。

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まりもりも

3.5坂本龍一

2024年5月10日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

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tomokuni0714

5.0sayonara skmt

2024年5月8日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

幸せ

お別れに行った。教授プロデュースの音響設備。間違いなく日本唯一の音場。左小指と薬指の距離感が音としてわかる。ペダルを踏むだけのフェルト音が放つ繊細かつ濃密な音。曲終わりのピアノ倍音の消え方。とにかくハイスペック。違う劇場でも聴いてみようと思う。最後のシーンで感極まる。さよなら教授。

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no

4.5坂本龍一の最後にふさわしい偉大な作品

2024年5月5日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

単純

坂本龍一が音響監修を務めた109シネマズプレミアム新宿にて、坂本龍一が選曲した 20 曲で構成された最後のピアノ演奏を記録した長編コンサート映画。
作品はモノクロで坂本龍一が20曲を演奏するだけの単純な構成。しかしそれでも感動せずにはいられない。カメラは坂本龍一の細部の息遣いからシワやシミ、痩けた顔を哀れもなく撮らえている。また演奏は精細を欠いて、失敗したところもそのまま映し出している。NHK「last days」を観た後に観たため、この時、坂本龍一の指先の痛みなどもあったとわかる。
これまで坂本龍一は前衛的でスタイリッシュなイメージで世間には自身の生活感は見せてこなかった人だと思う。しかしlast days含め、最後にこれほどまでに、決して完璧で美しくないが必死に死と音楽に向き合う美しい姿を見せてくれた。そこに死とは何か?生きるとは何か?この単純な構成の中に死期を悟った坂本龍一からの様々なメッセージが伝わる作品であった。まさに坂本龍一の最後にふさわしい偉大で最後まで前衛的な作品を残した。

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ron

5.0教授が追い求めた美に聞き入る

2024年5月1日
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鑑賞方法:映画館

楽曲との別れを惜しむように
そして戯れるような演奏。
息遣いが聞こえるほどの親密な空間。

厳選された20曲の演奏。
映像でしかなし得なかった最後のコンサート。

教授の楽曲、特にAquaに救われた夜が何度もある。
人生を反芻し、体全体で聞き入った。

Nスペ「Last Days 坂本龍一 最期の日々」の地続きにある
教授が追い求めた美しさが結集したような作品。

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Hironori Skywslker

5.0タイトルなし

2024年4月29日
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鑑賞方法:映画館

興奮

知的

幸せ

坂本龍一 さんご本人、最後のピアノソロ演奏の記録映像。
個々の音を、そっと配置するような、丁寧な音作り。
若いころのようなイケイケな指さばきではないぶん、個々の音の深みが。

会場は、109シネマズプレミアム新宿、シアター7。
教授ご本人が監修した、究極の音響の映画館。
距離が無い? 配線も無い? 同じ室内に居る? ようにすら感じる体験でした。

この、混じり気のない音の紡ぎ。相応の音響設備だからこそ伝わってきました。

映像づくりの目線もすばらしく。
まるで、師匠や親を丁寧に観察して記録するような。
感嘆しかないです。

また何度か観にうかがって、理解を深めねばです。

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woodstock

5.0感動で涙

2024年2月24日
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泣ける

知的

おそらく自身最後であろう演奏に臨む
一人の偉大な作曲家の渾身の演奏の記録

静寂の劇場に響くその1音1音が、また
光と影に映される音を奏でる指と共に感動を覚えずにはいられない作品

涙する  どころか、しゃくりあげる程泣いてしまう感動
何度も観たい聴きたい作品

坂本龍一の作品をこれからも聞いていきたいと思う

芸術は長く 人生は短し

感動をありがとう

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ばにら

2.0音楽はあるが映画はない。

2023年11月23日
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鑑賞方法:映画館

すでに言われてるとおり、これはただの演奏記録映像にすぎず、ここには音楽はあっても「映画」はありません。著名な音楽家はピアノの前から一歩も動かず、カメラはその指先と表情をピアノの前や横から、PANやズームを繰り返して撮っているだけです。演出というほどの演出はなく、正直言って「監督」がこの作品において何に貢献したのかもよく分からない。

すでに死の半年前を切った時点での記録がときとして胸を打つことは確かで、筋と骨が浮かび上がった痩せこけた指が、鍵盤の上で音を探ってゆく姿が感動的ではあります。

感動的ではあるんだけど、それは「記録」としての感動であって、演奏そのものへの感動ではないんですよね。彼は著名な作曲家であって偉大な演奏家ではなかったのだから、これは仕方がない。仕方がないが、それならなぜこんなに延々と演奏をきかされるのか。

そしてその「記録」としての感動も、やはりさしたる演出もないまま延々とつづくので白けてくるのです、正直言って。かなり熱心なファンでも、「もうちょっと何とかならなかったかな」と微かに不満を抱くような気がします。坂本氏のコンサート映像はたくさんあって、それらを上回って見る価値があるかというと、個人的には疑問ですね。

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milou