ハリウッド俳優・尾崎英二郎が明かす、絶賛相次ぐ「SHOGUN」の貴重な舞台裏 真田広之への敬意も語る

2024年4月6日 08:00


織田信長がモデルの役で出演した尾崎英二郎

ハリウッドの制作陣が、巨額の費用を投じて戦国時代の日本を描いたドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」(ディズニープラスで配信中)。

真田広之が主演・プロデューサーを担い、二階堂ふみら日本人キャストが多く出演していることなどで日本でも大きな話題となっているが、その高い作品クオリティがハリウッドや世界中で絶賛とも言える評価を受け続けている(辛口批評サイト「Rotten Tomatoes」では、批評家スコア99%支持、観客スコア92%支持/いずれも4月5日時点)。

4月2日に配信された第7話のラストシーンには、日本や海外の観客も強い衝撃を受けたようで、呆然、唖然の様子を伝える言葉がSNS上で多く挙がっていた。

『SHOGUN将軍』ディズニープラスの「スター」にて独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

そんな「SHOGUN 将軍」において、織田信長をモデルにした重要人物・黒田信久役で出演しているのが、ハリウッドで活躍する日本人俳優・尾崎英二郎だ。同作が社会現象化しゆくこの機会に、尾崎が“現場にいた者だけが知る貴重な舞台裏”を、映画.comに明かしてくれた。

日本の観客が観て「迫真」と感じる日本描写は、どのように実現したのか? わずかな時間しか登場しない衣装の細部にまで詰まった、一流のこだわりとは? 「ラスト サムライ」「エクスタント」に続くタッグとなった真田広之とのエピソードは? 寄せられた尾崎のコメントを、可能な限り掲載する。


尾崎英二郎プロフィール

1997年のNHK連続テレビ小説「あぐり」でTVドラマに初出演。その後、舞台「THE WINDS OF GOD」のニューヨーク公演で評価されたことから、米国で活動する決意を固める。トム・クルーズ主演「ラスト サムライ」(2003)を経て、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(06)の主要キャストのひとり大久保中尉役に抜てきされる。その後、ハリウッドを拠点に活動し、人気TVシリーズ「HEROES ヒーローズ」(07)、「フラッシュフォワード」(09)、「TOUCH タッチ」「ママと恋に落ちるまで」(12)などに出演し、スピルバーグ制作総指揮の「EXTANT(原題)」では真田広之と共演した。米国のTVドラマや映画のほか、日本映画「学校をつくろう」(11)やブラジル映画「Gaijin~Love me as I am」(05)などにも参加しており、アクションゲーム「デッドライジング3」(13)にモーションキャプチャーで出演するなど幅広く活躍する。

※以下、尾崎のコメント。

尾崎英二郎と「SHOGUN」について

尾崎:1975年にベストセラーとなったジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」は、英語版が1200ページ前後、日本語版が上・中・下巻で1500を超え、太閤逝去後から「関ヶ原の戦い」に向かっていくまでの物語であることは有名ですが、1980年の米国地上波テレビ局が大ヒットさせた初映像化の際には、主人公の英国人航海士ジョン・ブラックソーンの眼から見た「未知の国」として描くコンセプトだったため、原作の中にかなり濃密に書かれていた「日本の人物たちの駆け引きや謀り事=政治劇としての面白さの側面」があまり深く掘り下げられてはいませんでした。

しかし2024年版の「SHOGUN 将軍」では、旧作では描ききれていなかった「日本の側から見つめた物語」が、見事な繊細さと重みをもって綴られています。

第6話「うたかたの女たち」の、“安土城での回想シーン”もまさにその1つで、1980年度版のシリーズでは、鞠子の父・明智仁斎が生きていた時代を映像化した場面はありませんでした。しかし新作では、明智を家臣として城に迎え入れた黒田が、娘の瑠璃姫(のちの落葉の方)と鞠子を引き合わせる、運命的な出会いの経緯を挿入しています。

今回演じましたのは、その安土城を居城とし、天下を統治している「黒田信久」役です。

●「役」を演じるまでの道のり あきらめず、髪を伸ばし続けていたらチャンスが

まだコロナ禍であった2021年の春に、北米を中心に大々的に進行していた主要キャストのオーディションで、ある役柄を演じた演技ビデオが制作陣の目にとまり、「プロデューサーらが演技ビデオを気に入っている」との知らせを一旦受けました。しかしその時は残念ながら役の獲得には至らず、カナダのバンクーバーではその年の秋に本ドラマの撮影はスタート。

それでも、シリーズは10話構成なので、「まだ、どこかでチャンスがあるかもしれない……」と密かにあきらめず、髪を切らずに伸ばし続けていました。

すると翌年の1月、突然エージェントから「『SHOGUN 将軍』からスケジュールを押さえられた、ボリュームは大きくはないが、重要な役柄で、ある主要キャストの父親だ」と。前年に全力を尽くした演技への、制作陣からの反応は嘘ではなく、その手応えはまだ生きていたのです。

まさかの知らせに非常に驚きましたが、無事スタジオ側の了承も下りて契約し、そこから急ぎ、役を演じる準備に入っていきました。

『SHOGUN将軍』ディズニープラスの「スター」にて独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

本作で、真田広之さんが徳川家康の史実をベースに描いた主人公・吉井虎永を演じている世界線で、織田信長をモデルにした黒田を演じるというのは、それがたとえわずかな回想シーンであっても、畏れ多いほど光栄なことでした。

と同時に、太閤の前の天下人としての威厳や独裁的な印象、鞠子(演:アンナ・サワイ)と落葉の方(演:二階堂ふみ)、2人の行く末にも影を落とす存在だったことが、その限られた場面の中で視聴者の方々に伝わらなければならない役割ですから、もの凄く大きな責任を感じました。

真田広之とのエピソード、「学び」について

僕が「戦国」という時代の作品に触れたのは、10歳の時に公開された映画「戦国自衛隊」(真田広之出演)でした。

当時、スクリーンで観た真田さんは、武田の軍勢の恐ろしいほどの執念を体現する重要シーンを演じていました。自衛隊のヘリの搭乗員たちに音も無く忍び寄る時の表情と身のこなしは今でも脳裏に焼き付いています。

2003年の「ラスト サムライ」は、僕にとって初めての米国映画(出演)で、真田さんが侍として戦う姿を目撃できた現場です。しかしクライマックス・バトルを演じた侍と兵士は、俳優とエキストラを合わせて数百名もいましたから、主要キャストの方々に僕らから気軽に声をかけることは控えなければならない状況でした。

真田さんと、巨大企業のCEOとその部下という関係で、ようやくシーンをご一緒することが叶ったのは、2014年のSFドラマ「エクスタント」です。気さくに現場で迎えて下さった真田さんは、セリフ運びについての助言を下さったり、事前にシーンの日本語訳の内容のすり合わせ作業を一緒にして下さったりしました。シーズン・レギュラーとしての苦労話なども撮影の合間に聞かせて下さったりしました。

そして今回の「SHOGUN 将軍」では、ハリウッドで“主演の看板”をついに背負い、製作者としてもドラマ全体を牽引する真田さんは、シーズンの途中から現場に入っていく俳優たちに対してもとても和やかでオープンな雰囲気を作って下さり、常に隅々までに目を配り、僕らの立ち方や着こなしなどについてもおかしな点があれば優しく教えて下さいました。

10歳の時から劇場で見つめていた方に、侍や武将としての身の捌き方や立ち居振る舞いを目の前で手ほどきしていただけたことは、特に米国に住んでいる僕にとって、本当に貴重でかけがえのない時間でした。

●“日本人の眼”を重要視…ハリウッドに「新たな視点」を与えたクリエイターと制作陣

二階堂ふみ/『SHOGUN将軍』ディズニープラスの「スター」にて独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

本作のトップクリエイターであるジャスティン・マークスさん(編集部補足:マークスは「トップガン マーヴェリック」の原案でも知られる)は、本作を手掛けるにあたり、これまでハリウッドの産業が正しいと信じてきた“多様性”では不十分で、日本人の眼で捉えた解釈を映し出してこそ、新たな時代に見合うものができると創意を語り、同トップのレイチェル・コンドウさんも、日本人キャストたちが作品に注ぎ込んだ才能や心に感謝してくれています。

だからこそ、主演・製作をかねる真田広之さんと、そして国際的なプロジェクトを多数制作してきた宮川絵里子さんとの初の布陣であったにも関わらず、数年間に亘って皆が同じ方向性を目指し、「かつてない視点」を生み出すことができたのだと思います。

●セリフの7割が日本語 脚本チームと翻訳担当のすごみ

アンナ・サワイ/『SHOGUN将軍』ディズニープラスの「スター」にて独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

「戦国の世」といえば、武将たちによる合戦の場がハイライトとなり、男たちのエピソードに偏るのが常ですが、本作では吉井虎永や、石堂和成(石田三成がモデル)や配下の者たちの懐の読み合いや野心だけでなく、理不尽な時代の習わしや掟の中で強く生き抜く戸田鞠子や落葉の方や宇佐見藤など女性たちの掘り下げ方が際立っています。

また、数多くのキャラクターたちが登場するにも関わらず、「人名紹介のテロップ」に頼ることが一切無く、誰がどのような地位や役職で、どうお互いが絡み合っていくかがセリフの中にしっかりと織り込まれ、観ている側に伝わるように書かれています。

セリフの7割が日本語となる本作でそれを可能にした米国の脚本チームの執筆力と、入念に英語から日本語、さらに時代劇の言葉への変換を成し遂げた北米と日本の翻訳担当の方々には舌を巻く思いです。

●ここまでのこだわりが詰まってるとは…! 衣装とセット美術と視覚効果のすごみ

『SHOGUN将軍』ディズニープラスの「スター」にて独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

新版「SHOGUN 将軍」は、全編をカナダのロケ地とスタジオ内のセットで撮影していますが、そのスケールは驚くべきもので、その予算は計り知れません。おそらく僕がこれまで携わったどの映画やドラマシリーズよりも、大きな製作費が投じられています。

見事な衣装の数々を手がけたデザイナーのカルロス・ロザリオは、なんと2300点もの作品を本作のためにデザインしたそうですが、嬉しかったのは第6話のわずかな回想シーンのための黒田の衣装が、単に“城主や君主らしい”ものであることに留まらず、ちゃんと織田信長についての下調べがされており、そのイメージが着物の色に反映されていたんです。

黒田の着物の内側の襦袢(じゅばん)と帯は、不敵にも派手な金色でした。まるで安土城の最上階の内外の装飾や金箔瓦の如くです。黒田が登場する3つ目のシーンは夜の篝火の中ですが、その時にどう映るのかが計算されていました。そういう細心の準備や工夫が、一瞬のショットに生きています。

美術デザインのヘレン・ジャーヴィスのチームが築き上げた城のセットに足を踏み入れた時にも、そのスケールやリアルな質感にも感動しましたが、さらに驚かされたのは完成後のシリーズの様々な場面を観た時です。

第6話でも、黒田と明智が城の門の前で向かい合った時、その門の外の遠方には、ちゃんと高台から見下ろした城下の町が映っています。撮影本番時はスタジオの中でしたから、城下の景色などはありません。ポストプロダクションのVFXの作業で加えられているわけです。

映るのはわずかに数秒でも「門を閉めておけば見えないのに……」なんていうことは考えないんですね。その安土の城下の景色があるだけで、そのシーンの説得力と雰囲気は段違いに変わります。ほんの少しの間の画だからこそ、一切手を抜くことがない造り込みに、脱帽するばかりです。

●視聴者の皆さんへ

尾崎英二郎

この作品は、今、ハリウッドの業界内や批評家たちの間でも「絶賛」といっていい旋風を巻き起こしています。これまでとは異なる、新たな時代の波、そしてストーリー・テリングの基軸ともなっていくであろう、多彩な人種や文化の融合チームの結晶のドラマをどうか見届けて下さい。

異国の地で創られたとは思えないほどの“王道”、しかし、大胆な視点・覚悟・試みの到達点としての新版「SHOGUN 将軍」をどうかじっくりとご堪能下さい。


SHOGUN 将軍」は、ディズニープラスの「スター」で独占配信中。毎週火曜に1話ずつ配信される(最終回の第10話は4月23日に配信予定)。

(執筆者:尾崎秋彦)

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