マーゴット・ロビーはどうやって「バービー」を実現させた? プロデューサーとしての真価を紐解く【ハリウッドコラムvol.347】

2024年1月24日 18:00


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ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

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米誌「タイム」は2023年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」にミュージシャンのテイラー・スウィフトを選んだ。歴史的に政財界から選ばれることが多い同賞においては異例の選出だったが、悲惨なニュースばかりの同年においてひときわ輝いていたアーティストなので文句なしの選考だと思う。

だけど、映画界に対象を限定すれば、マーゴット・ロビーこそ「パーソン・オブ・ザ・イヤー」にふさわしいと思う。2023年最大のヒット映画「バービー」は彼女なしでは存在し得なかったからだ。

多くの人にとって、ロビーはオーストラリア出身の女優で、「バービー」で演じた典型的なバービーはこれ以上ないほどのハマり役だ。

だが、彼女はプロデューサーも兼任しており、グレタ・ガーウィグ監督を呼びこんだ立役者なのだ。

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2007年にハズブロの玩具を元にした「トランスフォーマー」が大ヒットしてから、ハリウッドでは玩具をもとにした映画企画がいくつも立ち上げられた。「G.I. ジョー」や「バトルシップ」、「LEGO(R)ムービー」などが実現した一方で、「モノポリー」をはじめ多くの企画がいまだに実現に至っていない。コミックや小説などとは異なり、ストーリーが存在しない原作を映像化する場合、自由度が高すぎて方向性を定めるのがひどく難しいのだ。

マテルの「バービー」に関しても、最初はユニバーサル、次にソニーで映画化準備が進められていた。その間、エイミー・シューマーアン・ハサウェイらが主演候補となっていたが、いずれも製作に漕ぎ着けなかった。

事態が動き出したのは、ワーナー・ブラザースが権利を獲得してからだ。ワーナーとマテルは、「スーサイド・スクワッド」などで縁のあるロビーにバービー役をオファー。すると、ロビーは出演に興味を示したばかりか、具体的な映画化案を提示。これが気に入られて、彼女の製作会社ラッキーチャップ・エンタテイメントがプロデュースをすることになるのだ。

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話は遡るが、ラッキーチャップ・エンタテイメントの立ち上げには「フランス組曲」(14)というミシェル・ウィリアムズ主演のマイナーな映画が関与している。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でブレイク寸前のロビーは同作に準主役で出演。2013年に撮影しているあいだ、ロビーは助監督を務めていたジョシー・マクナマラとトム・アッカリーと意気投合。14年1月「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のロンドンプレミアでの再会をきっかけに、ロンドンでシェアハウスをはじめる(2016年、アッカリーとロビーは結婚)。間もなくロビーの幼馴染みのソフィア・カーが加わり、4人でラッキーチャップ・エンタテイメントを立ちあげる。なお、ラッキーチャップとはチャーリー・チャップリンに関係しているが、誰も由来を覚えていないとはロビーの弁。

ハリウッドにおいて人気俳優が製作会社を立ちあげるのは、脚本を待つだけの受け身の状態を脱出するためだ。企画を立ちあげ、しかるべき権利を獲得し、自分が選んだ脚本家や監督と開発を進めてパッケージを作り上げる。スタジオへの売り込みに成功し、いよいよ実現となると、晴れてその作品に出演を果たすことができる。

オファーされる作品に出演するより時間も手間もずっとかかるが、演技の幅や活躍の場を広げたいと思っている役者にとってはそれだけの価値がある。

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ラッキーチャップは「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」を皮切りに「アニー・イン・ザ・ターミナル」「ドリームランド」「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」などロビー主演映画をつぎつぎと実現させていく。

その後、クエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」や、デイミアン・チャゼル監督の「バビロン」などをオファーされるようになると、エリザベス・フェンネル監督のデビュー作「プロミシング・ヤング・ウーマン」と監督第2作「Saltburn」など、ラッキーチャップはロビーが出演しない映画もプロデュースしていく。

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バービー」のプロデューサーとして、ロビーが果たしたもっとも重要な役割は、スタジオへのプレゼンテーションだ。「バービー」にゴーサインを出すかどうかを判断する重要なミーティングにおいて、ロビーはなんと「ジュラシック・パーク」を例に挙げたという。歴史上、ハリウッドの大ヒット映画は、大きなアイデアと才能ある監督を組み合わせた結果であると説明。恐竜とスピルバーグ監督を組み合わせた「ジュラシック・パーク」など、ロビーは過去のヒット映画を思いつくかぎり挙げていったという。そして、バービー人形とグレタ・ガーウィグ監督の組み合わせがいかにヒットの可能性に満ちているかを力説したのだ。

ロビーのプレゼンに圧倒され、ワーナーはゴーサインを出した。そればかりか、ガーウィグ監督にクリエイティブ面での自由を与えたのだ。

その後のサクセスストーリーはご存じの通りだ。ちなみに、なんとしてでもゴーサインが欲しかったロビーは「10億ドルのヒットになります」とプレゼンで大見得を切ったそうだが、世界総興収は14億ドルを超えている。女性監督が手がけた映画として歴代最高の成績となった。

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ニコール・キッドマンシャーリーズ・セロンリース・ウィザースプーンらプロデューサーを兼任する女優は少なくない。だが、ロビーが彼女たちと違うのは、24歳のときにラッキーチャップを立ちあげるなどスタートが非常に早かったこと。さらに、「スーサイド・スクワッド」などの大作映画を通じて、ハイリスクの映画制作においてスタジオが何を求めているのか理解していることだ。スタジオの懸念を払拭しつつ、観客の期待をいい意味で裏切る企画を提示できたことで、「バービー」は社会現象となった。

マーゴット・ロビーはまだ34歳。これからも刺激的な映画を生みだしていってくれるはずだ。

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