オノ セイゲンPresents<映画の聴き方> Vol2. 映画館の音環境について

2023年11月19日 10:00


池袋の新文芸坐 スクリーンの裏に主要なスピーカーがあります
池袋の新文芸坐 スクリーンの裏に主要なスピーカーがあります

坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」サウンドトラック(1982年)録音に参加したことで知られる、世界的音響エンジニア、オノ セイゲンさんに映画と音、音楽についてのさまざまなトピックを伺う企画<映画の聴き方>。

難しい専門用語は少な目に、音の調整の仕事について、また一般の映画ファンがより良い音と環境で映画を楽しむための秘訣や工夫をわかりやすく語っていただきます。時にはゲストとの対談も。2回目は、映画館の音環境、スピーカーについてのお話です。

▼映画館のスピーカーについて

一般的な映画館のスピーカーを説明します。まずスクリーンの真裏に主要なスピーカーがあり、それはL(左)、C(センター、中央)、R(右)という3つのスピーカー、そして低音を鳴らすサブウーファーが設置されています。映画でプライオリティが高いのはダイアログ、セリフです。センタースピーカーから聞こえるようになっています。そして、L(左)とR(右)のスピーカーは主に音楽に使われます。この3つが何より重要です。

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映画ファンの皆さんは、5.1ch(チャンネル)という言葉を聞いたことがあると思います。L、C、Rでそれぞれ1chと数え、ダイナミックな重低音のみ鳴らすサブウーファーは、0.1chです。そして客席を囲むように5.1chでは左右両壁に複数、サラウンドスピーカーが設置されています。左右それぞれ1chです。足し算をしていただくと5.1になります。また後方背面左右にスピーカーを追加し、そこからさらに奥行きなどを持たせた音を出力し、より臨場感を盛り上げる7.1ch対応の劇場も増えています。7.1ch対応の劇場で5.1chで製作された映画を上映すると、両サイドと背面からは同じ音が聞こえます。

ダイアログと音楽、そして映画の音のもう一つの要素は効果音です。これは作品によりますが、セリフとぶつからないように入っています。例えば、列車や車、駆け抜ける馬、アクション映画の銃声や爆発音など、正面の3つのスピーカーと、そして左右と後方のサラウンドを上手に使って、スクリーンにまだ見えない音の効果で臨場感を演出します。たとえば列車が通り過ぎるように、左右に抜ける音を感じたことはありませんか? また、爆発などの轟音はサブウーハーのボリュームが肝心です。これは音楽でも一緒で、コントラバスなど低音の音程まできれいに出ていると、高い音もハーモニーもきちんと届きます。このボリュームやバランスは、僕が調整する時に最初にチェックする項目の一つです。

上映作品の調整中
上映作品の調整中

これはホームシアターも同様で、サブウーハー(LFE=Low Frequency Effect、120Hz以下)のレベルを調整することはすごく大事なんです。でも、作品、コンテンツによってバラバラで、ちゃんとしたルールが決められていません。Blu-rayも作品によってはタイミングがずれていたりするので、僕たちはスタジオでそれをディレイ(遅延装置)やEQ(イコライザー)を使って音響補正をしたり、ボリュームを調整します。

▼映画館の音響システムについて

映画館の音響システムで最もよく目にしたり、聞いたりするのがドルビー、DOLBYだと思います。米国の企業、ドルビー研究所が開発した技術です。DOLBY DIGITAL(ドルビーデジタル)は、デジタル音声圧縮方式で、映画の音声、Blu-ray、DVDで用いられ、2.0chや先ほど説明した5.1chで構成されます。DOLBY ATMOS(ドルビーアトモス)は、サラウンドをより進化させたもので、対応の映画館では天井にもスピーカーを設置しオブジェクト(例えばヘリコプター)音を3次元的に移動させたり、アトラクションのような立体音声を体験できます。しかし、ほとんどの映画と映画館は、5.1chのDCP上映です。LCR、そこにセリフ、音楽、効果音がプライオリティであることに変わりはありません。

スクリーンの後ろに設置された「BUNGEI-PHONIC SOUND SYSTEM」のフロントLCRスピーカー
スクリーンの後ろに設置された「BUNGEI-PHONIC SOUND SYSTEM」のフロントLCRスピーカー

僕が、音響調整を担当し音楽や音の素晴らしい映画を紹介する上映「Seigen Ono presents オーディオルーム新文芸坐」を開催している、池袋の新文芸坐は、2022年4月のリニューアルにともない、映写と音響設備を更新し、7.1ch/Dolby SRD-EXと、LCRには大型4ウェイシステムのカスタムスピーカーを用いた独自の音響システム「BUNGEI-PHONIC SOUND SYSTEM(ブンゲイ・フォニック・サウンド・システム)」を導入しており、劇場全体を包み込むような一体感を楽しんでいただけます。

僕が音響ハウスというスタジオで、映写係を担当していた頃(1978~80)は、ほとんどの映画(35ミリフィルム)は光学録音のモノラルでした。その後、アナログのドルビーサウンドになりデジタルの5.1chと進化していくわけですが、良い映画はモノラルでもあっという間に奥行きと広がりのある世界に引き込まれてしまいます。映画のデジタル化が進み、現在の映画館に供給されるDCP(デジタルシネマパッケージ)には、LRchに2chモノラル(同じ信号がLRに入っている)で送られてくる場合もありますが、新文芸坐ではその1chだけをセンターの1本のスピーカーから流します。それにより端の席で映画を観ても、音は画面の真ん中から聞こえます。

新文芸坐背部のスピーカー
新文芸坐背部のスピーカー

また、DOLBY ATMOS、DTS-Xなどのイマーシブサウンドのほか、大迫力の映像と音声が人気のIMAXシアターでは、IMAX専用のサウンド、スピーカーが使われています。プロセッサーには、DOLBYやQSCのほかフランスのTrinov(トリノフ)社のシステムを採用している映画館もあります。映画館に行ったら、ぜひスピーカーの数や位置にも注目してみて下さい。

<Information>
 11月24日、29日の「Seigen Ono presents オーディオルーム新文芸坐」では、7月の上映で大好評を博した、「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)」を再上映。24日19:20の回の上映後に、佐藤英輔さん(音楽評論家)とセイゲンさんのトークが行われます。

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11月29日にはセイゲンさんが、ジャズとブラジルの名盤から選曲、マスタリングを手掛けたコンピレーションアルバム「Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1」(4,400円税込)がユニバーサル ミュージックから発売されます。ジャズに初めて触れるビギナーは必聴、アーティストや楽曲を既に知っている音楽ファンも楽しめるラインナップで、複数のシーンが組み合わさってひとつの映画になったかのような音楽体験ができる魅力的な1枚です。収録アーティストは、オスカー・ピーターソンエラ・フィッツジェラルドルイ・アームストロング、ビル・エヴァンス、スタン・ゲッツ、チャーリー・パーカー、ウェス・モンゴメリー、エリス・レジーナアントニオ・カルロス・ジョビン、カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタジョアン・ジルベルト、ナラ・レオンら。冬のプレゼントにもぴったりです。

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