りんたろう監督新作お披露目、大友克洋と語る山中貞雄への愛

2023年3月20日 17:00


日本が誇る天才監督山中貞雄への愛を語った
日本が誇る天才監督山中貞雄への愛を語った

新潟市で開催中の「第1回新潟国際アニメーション映画祭」で3月20日、りんたろう監督最新作「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」が、ワールドプレミア上映された。りんたろう監督のほか、キャラクターデザインを担当した大友克洋、企画の丸山正雄、声優の小山茉美らが登壇し、作品を語った。

本作は、日本映画の黎明期にサイレントからトーキー初期にかけて活躍し、28歳で夭折した天才監督山中貞雄が生前に遺した「鼠小僧次郎吉 江戸の巻」をサイレントアニメーション化したもの。

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りん監督は20代の頃、時代劇アニメの監修をしていた松田定次監督との交流で山中貞雄の名を知り、その後名画座で「人情紙風船」を鑑賞し「悲壮な映画だけど、最後に紙風船が流れていったときにすごい監督だと思った」と強烈な印象を受けたという。久々の監督作で「日本のアニメーションの現場が変わっていて、これまでと違ったテイストを感じた。(企画の)丸山と何かを作ろうという話になったが、『鬼滅』の続編は作れない(笑)。それなら、日本の映画の大本に戻ろうと、山中貞雄になり、絵コンテまで作ったのがこの作品」と制作のきっかけを説明する。

更に、「今の若い人にとってはサイレント映画になじみがないでしょうが、ヒッチコックは映画は『サイレントから映画の全てが始まった』と言っているし、僕もそう思う。僕はアニメだからといって、セリフをベラベラしゃべるのが苦手。言葉を絵で表現できるのがアニメーションである、僕の中でそういう方向がひとつの形になって、完璧にサイレントにしようと決めた」「丸山と反時代的アニメをやろうと考え、スタッフは大変だったと思うが僕は満足いく形ができた。日本でやる以上、線の引き方など日本独特の文化を取り入れたかった」と内容について語る。

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丸山は「日本の文化を丁寧に拾っていない自覚があった。山中貞雄のすごさと、映画が無声からサイレントになっていく過程が面白く、どうしても伝えていきたかった。アニメーションで何ができて、何を残せるか? 僕ら年寄りがやるしかないと思った。(山中は)ハートウォーミングで、小市民を丁寧で優しく描いていく。20代で戦争で死んだけれど、彼が遺した『人情紙風船が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ』という言葉が好きで。チトサビシイ人をなんとかしたかった。それを文化的にわかってくれる人に向けて(作った)」と本作への強い思い入れを語った。

映画は山中貞雄が「鼠小僧次郎吉 江戸の巻」の撮影をするパートと、りん監督が脚色した「鼠小僧次郎吉 江戸の巻」のパートに分かれている。撮影パートの山中貞雄のキャラクターデザインを担当したのが大友克洋だ。この日サプライズで来場した大友は「山中貞雄で、りん監督なんでやるしかない」「山中貞雄を描いてくれ、なかなかこんな仕事はない」とオファーを即決したことを明かし、「資料がなかったので、一番大変だったのがミッチェルというカメラ。山中監督のスチル写真も数枚しかなかった」と振り返る。

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そして、「江戸ものが好きで『半七捕物帳』を寝る前に読んでます。(自分の作品で江戸時代を)やってみたいと思っても難しいんです。昔の無声映画の頃のセットを作った、当時の美術の人間が江戸の技術を知っていると思う。だから『人情紙風船』のような江戸は今は作れないですよね」と話し、山中監督作で一番好きなのは「丹下左膳余話 百万両の壺」だという。「山中貞雄のセンスは普通じゃない。時代劇は型が決まっているのに、『百万両の壺』だけおかしい、ギャグみたいに外した感じにセンスを感じる。生きていたら、どんな映画を撮っていたのかな」と山中貞雄とその作品への愛を語った。

大友のコメントを受けて、りん監督は「(大友は)シネフィルだから、山中貞雄だったら引き受けてくれる自信はあった。(キャラクターデザインが)あがってきたのが早かったです」と明かした。

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弁士として登場人物の声を使い分けた小山は「無声映画なので普通のお芝居ではないので悩みました」と告白するも、「今回は冒険というか実験というか新しい試みをさせていただいて感謝しています。普通、アニメはセリフを録った後に効果音をつけますが、今回は音楽を入れていただいてから、それとの掛け合いという初めての試みでした。世界が広がってよかった」と充実感を滲ませる。

制作にかかわった仏Miyu Productionsのエマニュエル=アラン・レナールは「フランスにとって日本のアニメは重要です。私は古典映画も見ており、子どもの頃クリスマスに『七人の侍』を毎年見ていました。映画の創世記に作られた江戸は美しいと思います。未来の世代に繋がることを願い、山中貞雄の映画そのものもフランスだけでなく、世界に伝えていきたい」「夭逝し、現存する作品が少ない映画作家として、(フランスの監督)ジャン・ビゴと重なる」とコメント。ピエール・ボサロンは「山中貞雄の3本の映画とセットでフランスで上映する企画が進んでいます」とアピールした。

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りん監督は最後に、「アニメーションは共同作業なので多くのスタッフがかかわっている」と観客に伝え、今作のスタッフ3人も壇上で紹介。また、大友が「OTOMO THE COMPLETE WORKS」(講談社)のPRステッカーを手配りするなど、新潟に集まったアニメ、映画ファンにはうれしいイベントとなった。映画祭は22日まで開催。チケット販売を始めとした映画祭の情報は(https://niaff.net)で告知している。

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