「ドント・ブリーズ2」製作陣が語る“盲目の老人”の異様な内面「自分が悪役ではなく、ヒーローだと確信していた」

2021年8月13日 09:00


8月13日から日米同時公開
8月13日から日米同時公開

強盗犯に襲われた盲目の老人が“ヤバイ奴”だったという衝撃の展開が待ち受ける「ドント・ブリーズ」は、全米で2週連続1位を獲得し、SNSの高評価も後押しとなり、異例のロングランにつながった。第1作の公開から5年、続編「ドント・ブリーズ2」が遂に封切り(8月13日)を迎える。日米同時公開を前に、監督・脚本のロド・サヤゲス、共同脚本兼プロデューサーのフェデ・アルバレスがインタビューに応じてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

第1作の惨劇から8年。盲目の老人(スティーブン・ラング)は、惨劇の起こった屋敷でひとりの少女(マデリン・グレース)を大切に育てていた。少女と2人だけの生活を誰にも邪魔されないよう、静かに暮らしている老人だったが、少女に向ける表情には言いようのない不気味さが漂っていた。そんな2人の前にある時、謎の武装集団が現れる。彼らが少女を狙って屋敷に踏み入ってきたことから、老人の狂気が再び目を覚ます。

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第1作で監督を務めたアルバレスは、今回の続編について「幸運なことに、僕とサヤゲス監督のタッグ作品『死霊のはらわた』『ドント・ブリーズ』は興行的に成功した。人々がそれらの作品を気に入ったことで、続編を手がける機会が与えられた」と告白。しかし、ヒット映画の続編には懐疑的だったようだ。

アルバレス「前作での成功の勢いを得ると、続編はそれほど労力を要さずに作られることがある。一般的に続編を手がけるフィルムメイカーは、簡単な方法として、全く同様のもの、あるいは、よりスケールだけを大きくしたものを提供するという罪を犯すことがある。だからこそ僕らは、皆が予測できないコンセプトを考えた。もっとも前作のスピリッツには忠実だ。前作の世界観も感じられるように描いてはいるが、今作は全く独立した映画とも言えるんだ」

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前作とは異なる魅力のひとつとしてあげられるのは、少女フェニックス役のマデリン・グレース。劇中では、暴力的なシーンも難なくこなしている。サヤゲス監督はグレースへの演出について「彼女は(アクションシーンも含めた)約95%を自分自身で演じてくれている。出演当時は、まだ11歳だったが、彼女は5歳から演技を続けてきた子役なんだ」と明かす。

サヤゲス監督「5歳の頃から演技のレッスンを受け始めていて、今回の撮影では周りに合わせてくれた。彼女がいかにプロであるかということに驚かされたよ。もちろん彼女には家庭教師や母親がいて、皆の助けを借りていた。だから、僕らは可能な限り、最高の環境を作り上げ、まるでゲームをこなすような感覚で演じてもらうことにした」

グレースは、ある水中シーンの撮影を気に入ったようだ。何度も水の中に入りたがり、最終的には「また明日、このシーンを撮影できないの?」とたずねてきたこともあったそう。現場では、撮影が始まるとすぐに表情が一変し、役柄に入り込んでいたそうだ。

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また、今作にはコロナ禍における“世界の現状”が反映されているようだ。「前作の世界は『現実ではない』と言っているものの、ある意味、世紀末的な要素が込められている。だからこそ、衰退したデトロイトの街を撮影場所に選んでいるんだ。この地域は、未来のアメリカにおける多くの地域を示している。アメリカの街を養ってきた自動車産業が衰退したようにね」と語るアルバレス。盲目の老人の自宅周辺の景色はCG加工をせず、Google Mapに映し出されてる“実際の家&ストリート”で撮影を行っている。

注目ポイントは“音”をひとつのキャラクターのようにとらえたサウンドデザインだ。

サヤゲス監督「ホラー作品の性質上“音”が物語の重要な要素となり、映画館では完全なサウンド体験を楽しむことができる。自宅では、このような“音”の体験はできない。参加しているのは、才能のあるサウンドデザイナーたち。このような“音”を最前席でとらえる映画で、彼らもその才能を示せる機会を望んでいた」

アルバレス「前作には、ほぼセリフがなかった。その結果、沈黙の時間が増え、それ自体が物語の一部になっていた。そんな沈黙に慣れれば、冷蔵庫の音、緩いステップの足音がしっかりと聞こえ始めるはずだ」

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アルバレスは、サヤゲスに監督を委ねたことについて「バトンを渡す際の決め手は、前作で良い仕事ぶりだったこと(第1作では、脚本を担当)。僕が監督をしないと決めた際『誰が監督をできるのか』と考えた。しかし、キャラクターのことを知らない外部の監督を連れてくるつもりはなかった」と振り返る。

アルバレス「映画における他の分野と比べ、脚本家から監督への移行というものはスムーズなんだ。優れた監督は、何よりも優れたストーリーテラーでなければならない。監督業に携わる人々は、時々技術的な側面を考えすぎることがある。しかし、実際は素晴らしい撮影監督と、技術面を手伝う各分野のリーダーが必要なだけだ。ただし、監督を務める際に困難なことがある。それは、シーンの撮影が順番通りでないことが多いということ。常に現状を把握し、ストーリーの脈絡も理解していなければいけない。だからこそ、監督は素晴らしいストーリーテラーでなければならない」

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劇中では武装集団が盲目の老人の家に侵入し、フェニックスが家中を逃げ続けるシーンが存在。同シーンでは、ワンショット撮影が行われている。

サヤゲス監督「前作では、2、3分をかけて、家全体のあらゆる要素を映し出す光景があった。それを今作では拡張しようと思った。数週間をかけて、5分30秒~6分のワンショットシーンのアイデアを発案し、撮影を行った。今回のシーンは、前作とは異なり、俳優が映ったり、アクションもあったため、かなりの時間がかかった」

「前作の脚本には、ショットに関することも記していた」と話すアルバレス。撮影監督を務めたのは「ドント・ブリーズ」も担当したペドロ・ルケ。ウルグアイのホラー映画「SHOT ショット」(劇場未公開)において“86分ワンショット撮影”を手掛けた長回しのエキスパートだ。

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第1作では、盲目の老人が放つ異常性によって、彼への同情の思いを抑制している。このようなキャラクターが生まれた理由、そして続編ではどのような意識を持って描くことになったのだろうか。

アルバレス「第1作において、観客が盲目の老人の魅力を感じてしまう理由。それは恐ろしい行為を、全て正当化してしまうことだった。盲目の老人は、一体なぜこんなことをしているのか。彼はその答えについて、常に強力な主張をすることができた。盲目の老人は異様なことをしてはいるが、彼として『自身の身を守っている』と言えるだろう。だからこそ、続編では『自分だけを守る』という状態から離れ『過去に自分がやった行為』『自分自身が何者であるか』ということに直面しなければならなくなる設定になれば面白いと思った。彼が前作でもっとも恐れていたことは、自分が“悪役”になることだ。盲目の老人は、自分が悪役ではなく、ヒーローだと確信していた。そんな彼は、自身の現実に対峙することを恐れている。それこそ、この物語の核の部分なんだ」

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