劇場公開日 2024年5月24日

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「誰もが知っている」関心領域 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5誰もが知っている

2024年4月9日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

壁の向こうで24時間、何が起こり何をしているのか皆、知っている。壁の向こうからこちら側が何を搾取しているのかも知っている、感づいている、聞こえる。それをグレイザー監督は見せずに示した。映像を手中にしている映画監督が自分で自分の手を縛って見せないことを選んだ。

ザンドラ・ヒュラー演じるヘドウィグは5人の子どものお母さん。ガーデニングに精を出し「天国の庭」と呼ばれるほど、色とりどりの花が咲き乱れている。少し滑稽な大股歩きをいつもしていて、幸せなのかどうかよくわからない表情をしている。昼間は壁の向こうで熱心に働いているお父さんは、晩はこちら側に戻って子ども達にグリム童話を読んであげる。上機嫌な時は妻を「アウシュビッツの女王」と呼んだりする。

戦後、皆、「私は知らなかった」と言った、ドイツ人やオーストリア人やその他も。そんな状況は今も続いている。この映画は今の世界を描いている。

おまけ
特別先行上映で見ました。ナチ時代における女性史研究のスタートは遅かったが流れは早かったようです。当初は女性は被害者という見方、それが女性も主体的にナチに賛同し行動し利益を受けるなど共犯者でもあったことがここ数年の歴史研究で解明されてきたようです(井上茂子「ナチ時代のドイツ女性を再考する」所収『歴史評論』vol.889 /2024.5.より)
歴史研究を続ける、その果実を私達のような普通の人々も受け取ることができる、このような歴史関連の研究や記録へのアクセスを日本でももっと欲しい。

talisman