劇場公開日 2023年7月21日

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「個々問われる範囲が極端に広すぎて厳しい…。」ナチスに仕掛けたチェスゲーム yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5個々問われる範囲が極端に広すぎて厳しい…。

2023年7月25日
PCから投稿

今年253本目(合計904本目/今月(2023年7月度)39本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))。

大阪市では1週間遅れのこちらの作品です。
内容に関しては多くの方が触れているので、こちらでは省略します。
チェスそのものに関するルールは深くは問われないものの、どのコマがどのような動きをするのか等を知らないと、一部のシーンの理解に支障をきたすので注意が必要です。

個人的に思ったのが、この映画、ドイツかドイツの影響を受けた国を舞台にしているところ、主人公は弁護士であり、法律ワードが唐突に飛んでくるところ、日本はドイツ・フランスを中心とした折衷的な法体系で(戦後の法律はアメリカの影響も受けている)、何を言いたいか理解が難しい(一定程度の知識を持っているのが前提)、この映画はその「ドイツ系諸国の民法」の話を突然始めるところ、脈略もなく始める上にそれを知らないと理解に支障をきたすという点があり、何とかならなかったのかなぁ…という気がします。

ただ、法律ワードが飛ぶところはそれでも3か所程度で(その1か所がそれぞれ極端にマニアック)、飛ばしながら見るのも一つの手です。その場合、チェスに関するルール(将棋からでもある程度の推測はつく)が求められてしまいます。

みかけ上チェスに関する映画でもなければ、実は(日本で見る場合のことを考えると)特殊な知識を要求してくるという映画です。

採点は以下のようにしています。

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 (減点0.3/字幕が極端にマニアックで、一部の理解が非常に難しい)

 ・ 日本では2月だったか3月だったか、「シャイロックの子供たち」の映画で抵当権抹消がどうだのという登記ネタがバンバンでて力尽きた方もいらっしゃるのではないかと思うのですが、この映画も実はこれを問われる点があり、しかも「日本とドイツとの違い」まで知っていなければならない(知らないと、セリフの前後関係がおかしくなる)という特異な点があります。
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 (減点なし/参考/抵当証券(抵当権)、商業登記(不動産登記?)等の話(ホテルの登記がどうこうという話)

 主人公は弁護士という設定で、基本的には日本もそうですが、逆にいえば日本と日本の影響を受けたいくつかの国(韓国、台湾など)以外では弁護士以外の法律職がないところも多いです。

 ここの「抵当権」や登記うんぬんという話は、日本ではちょうど司法書士の独占業務で(行政書士ではできない)、かなり深い知識が必要です。さらにその上で日本(ドイツ民法とフランス民法のミックス)とドイツ民法の差を知らないとわからない部分もあり、結構厳しいです。

 日本では、不動産の物権変動(購入、売却、贈与ほか)は自由にできますが、その事実を第三者に主張するには登記が必要です(民法177条)。また、土地などを借金のあてにしてお金を借りると、そこに抵当権というものが登記されます(不動産登記法ほか)。ですが、日本では(一部を除けば)不動産登記は「第三者に対して主張するために必要」であって、当事者間では登記を要しません(ただ、実際には司法書士に頼んで登記してもらうのが普通)。

 しかし、ドイツ民法ではこの点が「不動産の物権変動は登記をしないと効果なし」です。つまり、当事者間でさえも効果がなく「登記しろ」という扱いになります(ドイツに司法書士相当の方はいないようで、弁護士の方で専門にされる方がいるようです)。この点は日独の大きな差で、この「登記がどうこう」という話が映画の中でやたらに「しつこく」出てくるのは、このためです(登記をしないと何の効果もないため)。

 なお、日本はドイツ、フランス民法の良いところどり(悪く言えばつまみ食い)をした事情もあり、「当事者では有効だが、第三者にそれ(購入売却の事実)を主張するには登記が必要」です(177条)。このことは、日本が併合した韓国においてもそうでしたが、第二次世界大戦で日本が敗北すると、韓国・北朝鮮が成立し自国の憲法が定められたところ、民法においても「支配された日本民法そのままというのは嫌」という考えがあり、韓国はこの点についてドイツ流の規定(不動産の物権変動は登記をしないと何の効果もなし/韓国民法186条)が定められています。

  ※ 「当事者では有効だが、第三者に主張するには登記が必要」という日本・フランスと、「登記をしないと当事者間でも有効ではない」という韓国・ドイツの差に注意。

yukispica