劇場公開日 2023年6月23日

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「アンドレア・ライズボローのアカデミー賞主演女優賞ノミネートも納得の、痛々しくも感動的な一作」To Leslie トゥ・レスリー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アンドレア・ライズボローのアカデミー賞主演女優賞ノミネートも納得の、痛々しくも感動的な一作

2023年8月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

過去の過ち(または後悔)から立ち直ろうとする主人公を描いた作品としては、近作の『ザ・ホエール』(2022)をはじめ、ケイシー・アフレックがアカデミー賞主演男優賞を獲得した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017)など、多くの名作が存在します。それらの多くが男性を主人公としている一方で、本作のレスリーは、ジェームズという一人息子を育ててきた女性です。

シングルマザーとして様々な苦労を重ねてきたことは画面外からも伺えるんだけど、宝くじの賞金をアルコールで浪費してしまうほどに生活も性格も破綻をきたしたレスリーの姿はひたすらに痛々しく、観客の同情や共感を拒絶するかのようです。一旦は母親を引き取ろうとするものの、涙ながらに拒絶してしまうジェームズ(オーウェン・ティーグ)の方にこそ、気持ちを寄せてしまうほど。

ホテルの仕事を与えてくれたスウィーニー(マーク・マロリ)ら手を差し伸べてれる隣人はいても、ささくれ立ったレスリーの心はその好意を受け止めきれず、結局台無しにしてしまい、その後悔からさらにアルコールにのめり込んでしまう…。マイケル・モリス監督は、Netflixドラマ『ベター・コール・ソール』や『ハウス・オブ・カード』で多くのエピソードを手がけており、その経験に裏打ちされた、どん底に落ちた人間の生き様を描く手腕は見事です。

レスリーの彷徨は苦痛と絶望に満ちていて、鑑賞のかなりの時間はその赤裸々な状況を受け止めることになるので、相当に心の痛む体験となる人もいるでしょうが、人そのものの善性、そして人生のやり直しは可能という確固たる信念に裏付けされた物語は、決して観客を失意に置いたままにする、という意地悪な内容とはなっていません。

もちろん主演のアンドレア・ライズボロの演技は素晴らしいの一言ですが、彼女の演技はナンシー役のアリソン・ジャネイのこれまた素晴らしい演技によって引き立てられている部分も大きいので、ジャネイの姿にもぜひ注目して欲しいところ。

yui