劇場公開日 2023年6月9日

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「ひねったタイトルに想像をかき立てられる」逃げきれた夢 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ひねったタイトルに想像をかき立てられる

2023年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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二ノ宮隆太郎監督の映画を観たのは、萩原みのり主演作「お嬢ちゃん」に続き2作目。どちらのタイトルも割とシンプルなのに予想がつきにくく、鑑賞後も「どういう意図でつけたのだろう?」と一層想像をかき立てられる。本作に関しては、アラ還世代の男が主人公と聞けば、バブル期の少し前に苦労せず就職して年金の心配もなく……といった“逃げ切り”のことかと思ったがそういうわけでもない。

2作の共通点としてもう一つ、冒頭の印象的な長回しを挙げておきたい。本作では光石研が演じる丁寧な言葉遣いの主人公・末永周平がある施設で受付を済ませ、室内へ歩み進むのに合わせ、光石を正面からとらえたカメラが徐々に後退するにつれてそこが高齢者向けの介護施設だと判明し、やがて車いすの老人に面会に来たのだと分かる。車いすに座る父親(実際に光石の父が演じたという)に正対しないまま語りかけるのは、周平がこれまで家族をはじめ誰とも本気で向き合わないまま生きてきたことをうかがわせる。

周平は北九州の定時制高校の教頭で、定年を前にして認知症の初期症状が出ているようだ。思い立って妻(坂井真紀)や娘との関係を修復しようと試みるが、まるでうまくいかない。酔って帰宅した場面で、LDKの中間のドア寄りに両ひざをついてだらだらと話し続ける周平と、リビングのソファに座る娘、ダイニングのテーブルそばで立ちすくむ妻、3人の位置で心の距離を象徴した構図が巧い。

自分自身のことや対人関係が、本当に今のままでいいのか、もっと何かできることがあるのではないか。そんな生き方についての内に秘めた焦りや葛藤も、二ノ宮監督作の「お嬢ちゃん」と「逃げきれた夢」に共通し、観客の心を揺さぶる重要な要素だと感じた。

高森 郁哉
トミーさんのコメント
2023年7月20日

そうかなあ? 親と正面から向き合ってきた子ってどのくらいいるんでしょう。この先生は自分なりに誠実に生きてきて、定年1年前になって自分の許容範囲を超える事態に直面したんだと思いました。

トミー