劇場公開日 2023年6月9日

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「忘れること、忘れたいこと」逃げきれた夢 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5忘れること、忘れたいこと

2023年6月19日
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鑑賞方法:映画館

笑える

知的

幸せ

すっごい、いい監督になりそうな予感。大好きなタイプの映像だった。少しダラダラとした空白の多いストーリーではあったけど、「街の上で」の今泉力哉監督を意識したような、とても文学的な映像で、そこからも監督の伝え事が顕になっていた。色々と考えさせられるタイプの、いい作品でした。

認知症の描き方は割と雑で、急に症状が現れることに違和感を感じたけど、光石研の演技が絶妙で違和感をカバー出来ていた。「波紋」から、またもや情けなく冴えない夫&父。福岡出身で安心して聞ける博多弁。福岡出身でないその他の役者たちもすごく良かった。地元であることが、この映画との距離をグッと縮めてくれるんですよね。松重豊のしゃーしーが最高😁 また福岡県民の役お願いします🙏

主人公含め、登場人物皆、掘り下げられていない過去がまだまだ沢山あったように思える。でも、その過去を深く描いていないことが美しい作りというか。たった3、4日だけ、中年男性にスポットを当てて物語を作った感じが、とても面白くて考えさせられるものがある。夫とて、父として、教師として、友人として、息子として。色んな顔を持ちながら、細々と生きていく。でも、ふとした瞬間に自分の価値を疑問視するようになる。虚無感に襲われる。そういう捉え方で合ってるのかわからないけど、悲しいような、はたまた全然違う感情なのか、とてもグッときた。

「お父さんめっちゃ喋るね、笑」
このシーンの光石研がものすご〜くちっちゃく見えて面白い笑 自分は何言ってるんだろうか、と慌てている姿がなんだか可愛い笑 だけど、このシーンを撮りたいがためにこの映画を作ったんじゃないかと思えるほど大事な場面で、色々思うものがある。これがラストでも良かったんじゃないかな。どんどん忘れていく主人公が、こんな状況になっても家族に好かれたいと思っていたり、自分の言ったことを取り消そうとしたり、自分勝手で人間臭すぎる人物像がたまらなく面白い。いや〜、もっと見たかったな。

もっともっと面白くできたはず!と惜しいところはあるけど、それでもすごく良かった。光石研パワーは偉大だけどさ笑 意外にも当たり。人生を振り返るきっかけとなる作品。上映館は少ないけど、ぜひ。

サプライズ