劇場公開日 2024年3月22日

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「スケールの大きさと迫力のVFXは楽しめるが、肝心の「地球のロケット化」が置き去りにされた物足りなさが残る」流転の地球 太陽系脱出計画 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スケールの大きさと迫力のVFXは楽しめるが、肝心の「地球のロケット化」が置き去りにされた物足りなさが残る

2024年4月1日
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2500年をかけて、地球を他の太陽系に移動させるという遠大な計画に、いかにも中国らしいスケールの大きさを感じ取ることができる。
だが、宇宙エレベーターの崩壊や、核兵器による月の爆破、あるいは海中のインターネット拠点の復旧といった見せ場が、迫真の映像とサスペンスフルな展開でたっぷりと描かれるのに比べて、肝心要の地球のロケット化や地下都市建設の経緯が、ほとんど描かれないのはどうしたことだろう?
例えば、ロケット・エンジンの構造にしても、まさか化石燃料を使っているはずがないので、おそらく、この映画の先駆的な作品である「妖星ゴラス」と同様に、核融合を活用しているのだろうが、そうした説明が一切ないのは、物足りないとしか言いようがない。
太陽系消滅の危機から逃れる方策が、「生命のデジタル化」と「地球のロケット化」という二者択一で、誰もが真っ先に考えつきそうな「多数の巨大なロケットによる地球からの脱出」という方法が検討されないことにも、違和感を覚えざるを得ない。
ロケットに乗れる人間の「選別」の問題を回避して、全人類を救うためなのかもしれないが、地球をロケット化しても、結局、地下都市に移住できる人間を「選別」しなければならないので、限られた人間のみが生き延びられるということに変わりはないだろう。
それから、「連合政府」なる国際機関が、物語の冒頭で、既に樹立されてしまっているが、人類共通の危機を前にして、国家という枠組みを越えて人類が協力し合うようになるプロセスを、ドラマチックに描くこともできたはずである。
あるいは、描き方次第では、資金の供出や役割分担を巡る国家間のエゴの衝突や、駆け引きのようなものに焦点を当てることもできたのではないだろうか?
ただ、連合政府の中国代表が「互助と団結」を説くシーンでは、「どの口が言う?」とシラケてしまったのは事実だし、下手に国家のエゴを描くと、「天に唾する」行為になりかねないのも確かなので、これが現在の中国映画の限界でもあるのだろう。
度々画面に映し出される「○○まで□時間」といった表示にしても、「○○」が、まだ発生してもいないし、あるいは、それが成功するかどうかが分かってもいないのに、そのことをネタバレしてしまっているのは、緊迫感を盛り上げるどころか、逆効果になっているとしか思えない。
その一方で、安っぽさや稚拙さを感じさせない迫力のあるVFXは見応えがあるし、自己犠牲の尊さを前面に押し出したクライマックスも、ベタな展開ながら、グッとくるものがあった。
主要なキャラクターを、宇宙飛行士、コンピューター・サイエンティスト、連合政府中国代表の3つのグループに絞り込んだ物語は単純で分かりやすいし、ロケット・エンジンの点火が、それとは関係ないと思われた、死んだ娘をデジタルで蘇らせるというエピソードと結び付くラストにも、ニヤリとさせられた。
特に、コンピューターの、「550W」を上下逆さまにした「MOSS」という名前や、「2001年宇宙の旅」のHALと同様に赤く光るレンズからは、作り手の遊び心さえ感じ取ることもできる。
いずれにしても、ハリウッドに負けないSF大作を作ろうとした中国の本気度は、確かに感じることができた。

tomato