劇場公開日 2023年10月6日

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「「でも、何で?」と理由を聞きたくなるような感覚」アンダーカレント TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「でも、何で?」と理由を聞きたくなるような感覚

2023年11月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

劇場鑑賞するかどうかの判断基準について、最も重要な要素と言って過言でないのが「監督」です。これは通を気取っているわけでなく、自分にとっての作品に対する好き嫌いが予想しやすく、特にご自身で脚本を書かれる監督ならなおさらです。そんな「見過ごすことができない」監督の一人が今泉力哉監督です。
ただ、候補にまで上がっていても、最終的に無視できないのが作品が掛かっている劇場と、その上映時間によっては気にはなっても諦めることがあります。また、年間100作品以上は劇場鑑賞する私にとって、やはりコストは無視できません。例えば、新宿バルト9は自宅からも職場からも距離があり、さらに安く鑑賞できる方法が基本平日のサービスデイとなると、結果的に「配信待ち」してしまう作品も少なくありません。そしてこの『アンダーカレント』もバルトか、、と思っていたら、今回角川シネマ有楽町で掛かると知り、喜び勇んで参戦です。
で、感想なのですが、、、正直まとまらないんですけど、うなりましたね。当然良い意味で。「なんか、すげーな」の一言です。
後半に明かされていく登場人物たちにまつわる謎は、観ている段階で「ひょっとしたら」と想像ができて特に意外性はありません。それはミステリーでありながら、流行りの「伏線回収」を狙ったようなものでなく、登場人物に自分を重ねつつ「でも、何で?」と理由を聞きたくなるような感覚。
人は他人のことを解らないばかりか、自分のとった言動に戸惑ったり、説明がつかなかったりすることがあるように、自分自身のことだって解ってはいないと気づくことがあります。今作『アンダーカレント』はまさにそういう部分の興味深さに、ついつい「あの場面って」と他の人の意見を聞いてでも、理由を確かめ合いたくなる作品な気がします。何なら正解なんて一択な結論はなく、観る人によって作品や登場人物に自分を重ねるからこそ、それぞれ解釈が異なるような複雑で面白いと思える構造に思わず感嘆するのです。
そして、そのストーリーをいつしか「リアリティー」と錯覚して見えてくる演出と、役者たちの演技がまた素晴らしいですね。それぞれのキャラクター性に明確な役割を感じ、この人しかありえないと思えるキャスティングの気持ちよさがあります。中でも、キーマンは「サブ爺(じい)」こと田島三郎を演じる康すおんさんですね。なお、私は今回も原作未読なので、もし原作ファンに異論があればご容赦いただきたいのですが、少なくとも、この映画の中ではいろんなものが「見えている」老人であり、若者たちの拠り所ととして聖職者のような存在感に観ているこちらも救われます。
さて、今まで敢えて聴かずにとっておいた某ラジオ番組の映画評論と、ネタバレありの番外編を楽しもうかな。そして、時間をおいてもう一度観て、その時々の見え方や想い方を比べて楽しむような「しゃぶりつくせる」旨味を感じる一作です。感嘆。

TWDera