劇場公開日 2023年2月4日

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「捉え方は自由だが…」彼岸のふたり R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5捉え方は自由だが…

2024年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

あまり見たくない場面から始まるこの作品は、虐待から逃れたものの、親という絶対的な存在とのトラウマ、その過去への向き合い方の「一例」として描かれている。
この作品は、一例とみなさなければならない。ならないと思う。
主人公オトセの幼少期を見させられれば、同情しないわけにはいかない。
その彼女が18歳になって児童養護施設から旅立つ。
施設側も子供たちも、みなオトセの巣立ちとこれからの幸せを期待している。
オトセの母の身勝手さは一般的には目に余るものの、母という絶対的存在はオトセにとって変えることなどできない。
この心境は、彼女の特別なケースなので彼女自身でなければ理解するのは難しい。
しかしおそらく、親が子を思うベクトルよりも子が親を思うベクトルの方が強い。親が毒親でも虐待する親でも子供にとってベクトル値はそれだけ強いと思う。
ベクトルとは単に想いで、そこにポジティブもネガティブも加算される。つまりどうあれ、加算されていく方が子供なのだ。
ユメは地下アイドルグループ。彼女には父がいない。自分の夢を持ちながらも、母に甘えながらも、今ある微妙な幸せ感を感じている。
彼女は大人以上に大人的な考え方を持っている。妊娠という大きな出来事は、基本的には幸せそのものだが、彼女にとって、母にとっても喜べるものではないはずだ。
しかしユメは起きた出来事をそのまま受け入れる決心をする。通常そこに至るまでには大きな葛藤があってしかるべきだが、作品の主軸がオトセなのでそこには触れられていない。
オトセは、コンサート会場で精いっぱい自分自身を表現していたユメを見て涙を流したのは、自分との比較があったからだろう。
しかし彼女はユメに、妊娠したこととアイドルを引退したことを告げる。このときオトセは自分自身との向き合い方の違いに気づかされたのだろう。
似たような年代のふたり。おそらくオトセにとって、ユメの考え方に衝撃を受けたのだ。謎の男の声を無視しながら、彼女は実家へと歩き出す。
謎の男はオトセの別人格。彼女が持ってしまったトラウマそのもの。彼女のもう一つの声。
幼少期に彼の声に従い家を飛び出し、彼の声と対峙することになればその彼を殺してしまいたくなる衝動に駆られる。それが自損行為となるのだ。
以前オトセは男の声に救われたが、ついに対峙しなければならない時が来る。
母の本性 母の正体 殺してしまいたい母 その代役をしようとする謎の男 包丁を持ったオトセを見た母は「殺して、お願い」と叫ぶ。
オトセの葛藤と対峙、アクセルとブレーキを同時に踏むように包丁を突きたてながらその刃を握りしめる。
母への憎しみよりも母への愛情が勝ったとき、男は消えたのだろう。
オトセがいつも食べるハンバーグは子供の大好物の象徴だ。母のためにハンバーグ弁当を買う彼女に福引券が渡される。
3等賞 自転車 それは歩くスピードを象徴している。 オトセの人生が好転しスピードアップしたのだろう。
さわやかな風を感じなら自然と笑顔になって行く彼女の横顔のアップで作品が終わる。
自分自身 自分の過去 トラウマ それとの向き合い方、あるいは対峙の一例。
オトセにとっての方法が母に対する赦し。
母にとっては娘の殺意を受け入れること。
これができたことでようやくスタートに立った二人を描いた作品。
作品情報を見たが「地獄大夫」とか関西では有名なのかな。タイトルはそれと掛けられているようだがまったく意味不明だったところが残念だった。

R41