劇場公開日 2022年12月9日

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「傷ついた者たちの再起の願い」夜、鳥たちが啼く 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0傷ついた者たちの再起の願い

2022年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

芥川賞、三島由紀夫賞など主要文学賞の候補にたびたび挙がりながら、1990年に自ら死を選んだ作家・佐藤泰志。だが2010年に映画化された「海炭市叙景」以降は文学ファン以外にも広く名が知られるようになり、この「夜、鳥たちが啼く」で原作小説が映画になるのは実に6度目。もっと早く評価されていたら……と惜しまれるが、本作の主人公・慎一も売れない作家であり、これまでの映画化作品の中でもとりわけ原作者の心情が投影されたストーリーと言えそうだ。

原作の短編はあいにく未読だが、「夜、鳥たちが啼く」という題に関して。まず「鳴く」ではなく「啼く」が選ばれている。日本語大辞典の「啼」の項によると、「鳥などが声高く鳴く」のほかに、「涙をながし声を発して泣く」の意味もあるという。もちろん映画の中にも近所の鳥小屋の中で鶏らしき鳥が鳴く描写があるのだが、それぞれの結婚生活が破綻し挫折感を抱える慎一(山田裕貴)と裕子(松本まりか)が心の中で流す涙や声にならない叫びを示唆しているようにも思える。

題に関してもう一点。佐藤泰志は「きみの鳥はうたえる」でビートルズの楽曲『And Your Bird Can Sing』の題を借用しており、作中には主要人物の1人である静雄がこの歌を歌う場面もある。佐藤本人もビートルズ好きだったのではと推測できるし、ひょっとしたら「夜、鳥たちが啼く」の題もビートルズの『Blackbird』の冒頭、「Blackbird singing in the dead of night」への言及ではなかろうか。実質的に作詞作曲したポール・マッカートニーは、1960年代当時の米国の公民権運動をめぐり差別された黒人女性について歌った曲だと説明しているが、詞全体としては、傷ついた存在の再起を願う気持ちが伝わってくる。佐藤泰志もまた、慎一と裕子の、そして自分自身の再起を祈る想いをこのタイトルに託したのではないか。連想が飛躍しすぎかもしれないが、映画にもそれに近いメッセージが込められているように思う。

高森 郁哉