劇場公開日 2022年4月29日

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「なんだかホッとするものがあった」ツユクサ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5なんだかホッとするものがあった

2022年4月30日
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鑑賞方法:映画館

 小林聡美の演じた五十嵐芙美さんが、大林宣彦監督の映画「転校生」の斉藤一美とタブって見えた。三つ子の魂百まで。女は歳を重ねても乙女のままなのだ。

 芙美さんは古臭い価値観から抜け出せないでいる。子供は親の言うことを聞かなければならない。義理の親でも親は親。尊敬して大切にしなければならない。昭和と呼ばれそうな価値観だ。
 そんな価値観が息子を死に追いやったことを、芙美さんは未だに理解していない。だから友達の息子の航平の話すことを理解しようとせず、一方的に偉そうに説教をする。映画だから航平は芙美さんのことを嫌いにならないが、現実なら愛想を尽かしていたはずだ。

 主題歌は昭和に大ヒットした中山千夏の「あなたの心に」である。中山千夏は歌手活動の後に国会議員になったり、たくさん本を書いたりしている。何冊か読んだ記憶がある。内容は殆ど忘れてしまったが、その中のひとつに、恋とは性欲のことだと看破している文章があった。誰もが明言を避けている真実を堂々とストレートに書いているところに感心した。改めて歌を聞いて感動した。やっぱり昭和の歌手の歌は、聞いていて心地がいい。

 本作品で芙美さんが成長するわけではない。さすがに50歳のおばさんに成長はあり得ない。しかし松重豊の吾郎さんに逢って、芙美さんは乙女に戻る。キスをして男の舌で口の中を舐め回されれば、心も溶けてしまう。
 芙美さんといい、吾郎さんといい、子供の心のままの大人である。東京で居場所をなくして流れ着いた伊豆の町で出逢い、そして忘れていた恋心に目覚める。そう、本作品は恋愛映画なのだ。優しい大人同士の優しい恋愛である。なんだかホッとするものがあった。

耶馬英彦