劇場公開日 2021年12月10日

「気候危機、トランプ政権、パンデミック…狂っていく世界を“彗星”に託して笑いのめすブラックコメディ」ドント・ルック・アップ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5気候危機、トランプ政権、パンデミック…狂っていく世界を“彗星”に託して笑いのめすブラックコメディ

2021年12月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

悲しい

怖い

これまで報道、金融、政治といった特殊な業界の現実や裏側を描いてきたアダム・マッケイ監督が、今度はなぜSF? と観る前は疑問に思ったものだ。だが、監督はSFディザスタームービーを撮りたいわけではなかった。

インタビューで語っているが、着想の原点は、2019年にデイビッド・ウォレス・ウェルズ著『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』を読んだことだったという。温暖化という危機に今行動を起こさなければ、地球はとんでもないことになる……それを人々に理解してもらうにはどうしたらいいのか。そう考えながら構想に着手し、あるときジャーナリストのデビッド・シロタ(本作の原案に名を連ねている)との会話で、温暖化への今の対応は「彗星が地球に衝突しても、誰も気にしないようなものだ」という例えを聞き、これなら映画になる!と確信したそうだ。

レオナルド・ディカプリオが演じる天文学者とジェニファー・ローレンスの大学院生がホワイトハウスに急遽呼ばれるあたりまではSFサスペンスっぽい導入だ。しかし、半年後に彗星が衝突するというのに、延々待ちぼうけを食わされ、ようやく大統領に直訴できてもまともに取り合ってもらえず、ボンクラ息子の補佐官はさっぱり役立たずだし……というあたりで、ああこれはトランプ政権時代の悪夢を笑いのめすつもりだなと合点がいく。

マッケイ監督はまた、脚本執筆中にパンデミックが起き、現実のディザスターが世界規模で広がっていくのを目の当たりにしたことで、脚本にクレイジーさが足りないと感じ、当初のものより「15%クレイジーさを足した」と語っている。コロナ禍による世界の混乱ぶりもまた、本作の笑いに反映されたわけだ。

いやはやそれにしても、出演陣の豪華なこと。元々はパラマウント配給の予定だったそうだが、2020年2月にNetflixが配給権を買い取ったことで、おそらく俳優の出演料にあてられる予算が潤沢になったからだろう、それ以降続々と大物スターのキャスティングが決まっていった。Netflixの勢いを感じさせる一本でもある。

高森 郁哉