劇場公開日 2021年12月10日

ドント・ルック・アップ : 映画評論・批評

2021年12月21日更新

2021年12月10日よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル池袋ほかにてロードショー

SF喜劇でもアダム・マッケイ節が全開! 風刺メガ盛りの“笑撃”に世界はどう応える

半年後に地球に衝突する巨大彗星が発見され、進路をそらすため核爆弾を積んだ宇宙ロケットが飛び立つ――という前半の筋だけ聞くと、「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」のようなSF大作かと早合点しそう。でも待って、監督・共同脚本のアダム・マッケイは、「俺たちニュースキャスター」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」「バイス」などの諸作で報道、金融、政治といった世界のトンデモな裏事情や不正を笑いも交えて風刺してきた社会派の喜劇人だ。ありきたりな大味の娯楽作で終わるはずがない。

天文学者のミンディ(レオナルド・ディカプリオ)と大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)が地球に迫る彗星を発見し、オーリアン大統領(メリル・ストリープ)に危機を直訴する。政府要職を身内と大口支援者で固めた大統領は、衝突の確率が99%なら起きない可能性もあると言い放つが、自身の性的スキャンダルが報じられると世間の目をそらすため宇宙ミッションを発表(しかし、彗星中の鉱物から莫大な富が得られるとするIT長者にそそのかされ計画を大幅変更)。報道番組に出て強い口調で危機を訴えたケイトは、嘲笑と中傷の的に。彗星が肉眼で見えるほど接近しても、大統領は「上を見るな(Don't look up)」というスローガンで支持者を煽り、科学的根拠から地球滅亡を危惧する国民との分断を主導する……。

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ここまでの情報で、もうお気づきの方も多いだろう。そう、本作でマッケイ監督が揶揄したのは、トランプ前米大統領のでたらめな政権運営、反知性主義、偏見と差別による分断の助長などなど。彗星衝突の危機への初動も、地球温暖化をフェイクと断じたトランプ政権にぴたりと重なる。ケイトへのネット上での攻撃も、国連で怒りの演説を行った若き環境運動家グレタ・トゥーンベリさんに対する温暖化否定派からの誹謗中傷にヒントを得たはずだ。

題名の「ドント・ルック・アップ」に含まれる「look up」には、「上を見る」のほかにも「(辞書などで)調べる」という意味がある。オーリアン大統領のスローガンでもあるタイトルは、つまり、「正しい情報を調べるな」「真実など知らなくていい」とも解釈できる。その末路は、もちろん楽しいハッピーエンドとはほど遠い。マッケイ監督と超豪華キャスト(ほかにケイト・ブランシェット、マーク・ライアンス、ティモシー・シャラメジョナ・ヒルヒメーシュ・パテルアリアナ・グランデも)が訴えるほろ苦いメッセージが、観客の考え方と行動にインパクトを与え、現実の世界に明るくクールな未来をもたらすことを願うばかりだ。

高森郁哉

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