ある男のレビュー・感想・評価
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「本当の自分」に捉われずさまざまな「顔」を持つことを許容すべしという人生哲学
本作は地味ながら、次のような2つメッセージを含んでいる。
① 人間は多様な「顔」を見せながら生きているもので、そのどれもが自分であり、どれか一つだけが真実の自分ということはないという人間観。
② とするなら、自他ともに「一つの自分という顔」に捉われず、さまざまな「顔」を持つことを肯定したほうが、人生をよりよく生きられるという人生哲学。
①の人間観の基は、原作の平野啓一郎が提唱する“分人主義”で、対人関係ごとに分化した異なる人格を“分人”と呼び、それら複数の人格すべてを「本当の自分」として肯定的に捉える考え方だという。
この考え方自体は、決して新しいものではない。小生には例えば、次のような文句が思い浮かぶ。「人間の本質とは、個々の個人の内部に宿る抽象物なのではない。それは、その現実の在り方においては、社会的諸関係の総体なのである」(マルクス「フォイエルバッハに関するテーゼ」)
そして、本作の新しさは、②の人生哲学にあるだろう。
例えば、本名不明のまま死んだ男は、少年時代に父親の殺害現場を目撃してしまい、以後ずっとそのトラウマに悩まされる。それは「自分はあの凶行を行った人間の子供である」というイメージであり、その重圧から逃れるために二度にわたり戸籍を入れ替える。
彼の正体を調べる弁護士は日本に帰化した元在日朝鮮人で、やはりことあるごとにそのレッテルに苦しめられている。彼が死んだ男の身元捜索に入れあげるのはこの共通点があるためで、それは「気がまぎれるんだよ、他人の人生をおいかけてると」という述懐に表れている。
つまり、二人とも「殺人者の子供だったり、在日朝鮮人である」という「本当の自分」に捉われ、苦しんでいるのである。
映画は弁護士の調査過程を通じて、死んだ男の妻や子が彼の経歴を知った後も愛し続ける姿、死んだ男と名前を交換した男の場合は、名前変更後もかつての恋人が自分を思い続けてくれるのに涙する姿、在日朝鮮人を侮蔑する懲役囚の卑劣な姿等を描いていく。それを通じて、「人間の本当の姿」などに捉われていることの愚かさが浮かび上がってくるのである。
事件の終了後、弁護士親子3人はレストランで昼食を摂る。そこで妻のスマホをたまたま見た弁護士の眼に飛び込んできたのは、妻と不倫をしている男のメールだった。しかし、彼は特に何も言わず、スマホを妻に返す。
ラストシーンでは、弁護士がバーで自分の経歴を平然と偽って語る。それはいたずらとは思えず、むしろ意識的に「自分の顔」から離れて生きる方が、人生の困難は乗り切りやすいと言っているように思える。人生哲学たる所以である。
なお、以上のように見てくると、ルネ・マグリット「複製禁止」の絵の解釈も自ずから定まってくる。それは「人間には『本当の顔』などない」という意味に違いない。
『私は差別しないわよ』という差別。。。
ぜひ、学校の道徳の授業にでも活用してほしい映画。
もっとミステリー調に仕上げることも可能だったはずだが、敢えて硬派な作りにこだわった制作陣の強い想いが随所に散りばめられている。
コンプライアンス重視、多様性尊重…
日本もずいぶん立派な国になったもんだなぁ、なんて思っているお気楽なみなさん、まだまだ、日本は、もとい、世の中には「差別」や「蔑視」がはびこってますよ。と作者は訴えている。
謎解き映画の姿を借りて、人間の悲しい実像を見せられてしまう。
不覚にも涙腺が決壊寸前だったのだが、どうしてだったのかは振り返りたくない。
もう一度観るか、もうやめておくか、悩む。
妻夫木の演技に震える
邦画ならではの陰鬱な空気が全体を支配しており、
個人的にはかなり好みでした。
幸いにして私は別人になりたいと思うような人生ではなかったので、
この映画の根幹となる問題提起には共感しづらい部分もありましたが、
それでもいろいろ考えさせられながら楽しみながら見ました。
この映画、いろいろ賞をもらったようですが、
そらそうだろうなって納得できるくらい、2022年の映画の中では良い出来でした。
妻夫木聡が、仕事なのでニコニコ振舞いながらも怒りを募らせていく演技が圧巻でした。
1点、
カエルの子はカエル、殺人犯の息子は殺人犯みたいなものが根底にあって
それに苦しんでいる・・・ってのは必ずしもそうかなぁと少し気になりました。
人生のスタートからしてハードモードなのは間違いないと思いますが
なんとかやっていけるんじゃないのかなぁ・・と
戸籍を変えたところで自分は自分じゃないのかなぁ・・
でもそれは自分が恵まれてるからそういう立場になってみないとわからないことなのかなぁ
・・・とか
色々考えさせられました。
映る顔
窪田正孝の演技が秀逸。親父似の顔に戦慄する表情がこの男の行動に説得力を与える。説得力といえば真木よう子。艶かしいラインに目移りしていたら、そういう話になるものか。
避けようのない出自と言われなきヘイトがテーマであるが、名を捨てようが捨てまいが、今をただ生きるしかないようである。
X
榎本明の怪演ぶりが物語に緊張感をもたらしてるように感じ、ふと「羊たちの沈黙」(91)のレクターを思い出しました。主人公X(窪田正孝)は、子供の頃の不幸な事件によって自分のアイデンティティを壊されてしまったのでしょう。意外な真相が明らかになってからの谷口里枝(安藤サクラ)の台詞に涙が出ました。なぜか不幸は連鎖する、重苦しい印象が残りました。
妻夫木聡が素晴らしい。
日本映画『ある男』を観た。
原作(平野啓一郎)は未読なので、小説との比較は当然できず、シンプルに1本の映画として観た。
「退屈な日常」が描かれているのかと勝手に予想していたが、その予想は大きく外れて(平野啓一郎がこんなに娯楽性の高いストーリーを紡いでいるとは知らなかった)、物語は(線香のシーンから)一気に不穏でミステリアスになる。
「どうなるねん、この先……?」
と、否応なしに惹き込まれていった。
脚本が自然で、役者陣が皆、達者だから、(非日常的なストーリーなのに)リアリティーは一貫して保たれている。抑制の効いた演出も秀逸。そして何より妻夫木聡の存在感と演技が素晴らしい。
ラストの(『衝撃の』的な)オチは正直どーでもいい。そこへ至る過程の中に、この映画の作り手の真意(差別主義者たちへの怒りと哀しみ)は十分に描かれていたし、きっと平野啓一郎が原作でこの何倍も深く、そこは書き込んでいるのだろう。
生き直したいと望む人の苦悩と希望、その切なる願いを阻まんとするこの社会の浅ましさが描かれた秀作。
誰だったか分かるだけ
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温泉旅館の次男だが家族と折り合いが悪く家を出た・・・
という窪田が宮崎の田舎で林業に就く。でサクラと結婚。
子供もできたが、仕事中に事故死してしまった。
ということでサクラは窪田の実家の旅館に連絡をとった。
で兄がやって来たが、写真を見て、これは別人だと言う。
ということで弁護士の妻夫木が調査を開始する。
で人と人の名前や生い立ちを入れ替える闇の男・柄本に行きつく。
刑務所で面会して話を聞くと、やはり関わってた。
窪田は3人殺した殺人鬼の息子で、プロボクサーだった。
自分の体に父親がいるのを嫌悪し、強烈な自己嫌悪があった。
ボクシングをしてるのも、自分が殴られるためだった。
ボクシングの才能はあったが、ある日自殺未遂し、姿を消す。
その後に温泉旅館の次男と入れ替わり、宮崎へ来たのだった。
こうして一連の調査が終了した時、妻夫木の嫁の不倫が発覚。
妻夫木は何と今度は自分が窪田と入れ替わって別人として生きる。
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劇場で見た。
配偶者が死んでみたら、誰これ?ってなった・・・・
予告編の段階から、こりゃおもしろそうと思ってた。
でも実際見てみると、つまらなくはないのだが、今一つかな。
この男誰?→こんな男でした、って分かるだけやからなあ。
特に伏線回収とか意外なつながりとかもあるわけじゃない。
あるとしたら、妻夫木が窪田に度を過ぎて肩入れしてる件かな。
何でやろ?と思ってたら、結局自分も今の人生に満足してなくて、
何者かと入れ替わって第二の人生を歩みたかったんやな。
自己実現
小説読んだことがあってずっと見たいなって思ってたやつ
分厚い本なだけに要所のシーンだけを集めました!感はあったけど、映像を生かした演出もあって良かった
面会室の手の跡のシーンとかね
血筋に囚われた男達が名前を変え、別の人生を歩む話
子は親を選ぶことは出来ないし、「血筋は争えない」などといった偏見を払拭することも難しい。
「知って思ったけど、過去なんて調べなくてもいいのかもしれませんね」
過去を知っても好きなものは好きだと言い続けられる人間になりたいと思った。
在日を取り扱うテレビの映像が雑すぎて気になった
後、息子が事故現場を見て何も言わないのはどうなんだろう?多少なりともショックはあったはずだが…
この作品を評価する映画業界はまだ終わってないと思った
ストーリーは、正直そこまで広がりがあるものでもなく、過去がわかったところでどうなんだという点に物語が収束してく感じが後半からする。
この物語を普通に演出したら本当につまらない映画になると思う。
勿論、色々な映画の語り方があると思うし、もっと適切な語り方もあるかもしれない。
でも、この危うい物語を映画ならでは表現(しかも派手さのない地味な表現)を使って、そして物語に奥行きと深みを持たせたことはとても凄いと感じた。
物語というより、映画の語り方がとても良い。
正直、この作品が映画業界で評価されるとは思ってもいなかった。
まぁ、アカデミー賞や映画祭ってのは、色々な力のバランスがあるとは思うけど、でもその中でもこの派手さのない作品が結局選ばれたってのはね。いいよね。
幸せのかたち
まず、自分だけのイメージかもしれませんが、安藤サクラさんというと悪役か、個性の強い役が多く「万引き家族」にしても泥臭い感じで、ノーマルな役を見た事がなかったので、普通の主婦の役が新鮮でしたし、さすがの演技力だと思いました。
そこに、いつ出てきても悪人なのか、善人なのか分からない窪田正孝さんのマリアージュは最高でした。
そして大変失礼ながら、見た目はかっこよくても「おもしろい」という作品を見たことがなかった妻夫木聡さんのこれ以上ないと思うほど、はまり役な弁護士。 美しく上品な妻に真木よう子さん。すべてのキャスティングがドンピシャだと思いました。
極悪非道な死刑囚の息子に生まれ、他人の戸籍を手に入れて人生を生き治す窪田正孝さんは、最後に家族に真実を知られてしまうけれど「優しいお父さんで、大好きだった。」と言ってもらえる。
反対に妻や子供に囲まれ裕福に暮らす妻夫木さんは、ある日妻の不貞を知る事となる。
自身の根底には「日系三世」というコンプレックスが根強く存在し続け、だからこそ、妻の不貞にも見て見ぬ振りを貫き通し、今の幸せを手放すまいと固持している。 どちらが幸せなのか? 最後に深く考えさせられた作品でした。
子役の子供の立場になって考えてみる
23.11.30
U-NEXTにて鑑賞
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自分の人生を自由に生きるため、
所謂黒歴史的な過去を塗り替えるため、
人は名前を変えることで、
新たな人生を手に入れられるのではという物語と、
私は解釈した。
不思議な感覚になる挿入音や、シーンの切り替え方が印象的だった。
ストーリー性があり、トントン拍子に物語が進むため、
観ていても飽きがこなかった。
たまにモゴモゴしてて聞き取れないところもあったものの、キャストの演技が自然過ぎて見入ってしまった。
ただ疑問に思うところとしては、3点。
母親がなぜ再婚相手のことをあそこまで知らないのか。
再婚する際になぜ相手の身元調査をしなかったのか。
なぜ何も知らないのに再婚したのか。
真面目に捉えると上記のような疑問が湧いてくるが、
一つの作品として成り立っていることを考えると、
その辺は目を伏せるべきなのかとは思う。
しかし、子役の子供の立場になって考えてみると、
正直、何も知らない相手と再婚する母親大丈夫か?と、
ならざるを得ない気がしてならない。
また、囚人である小見浦の発言で、
小見浦本人かどうかなぜわかるんだとあったが、
面会時点で小見浦の名前を伝えているのだから、
小見浦本人に案内するはず。
(実は小見浦も名前を変えて小見浦になりすましていた、
という解釈をしたほうがいいのか?)
そして終盤の曽根崎からの注意勧告メッセージだが、
最終的にミスズと谷口本人が出逢えていることに違和感があった。
何のための曽根崎からの注意勧告メッセージだったのか?
話をまとめようと雑にしただけなのか…?
疑問がいくつか残る一作となったため、☆-3.0。
ただ、とても見応えのある映画だった。
小説と同じ位かそれ以上
平野啓一郎の小説は大抵読んでいる。
だいたい映画化すると、残念になる事も多いと言われているが、この映画は小説と同じ位良かった。
安藤サクラは淡々と夫を亡くした妻を演じている。妻夫木聡もいい。
それに柄本明は怪優。あの人が静かに流れる映画の中に不穏な雰囲気を作っている。
亡くなった夫がどう生きてきたのか。
丁寧に描かれている。世の中にはいろんな人が溢れてるけど、こんな風に生きてる人いるかもしれないよね。生き直そうとしてたんだな。
あらすじはやりきれないものだけど、最後は辛く悲しくなんかない。それがいい。
窪田正孝の存在感
窪田正孝が主演の映画は初めての鑑賞だったので、静かな佇まいから醸し出されるオーラに感服しました。
天才女優・安藤サクラさんと並んでも引けを取らない素晴らしい演技でした。
それにしても、安藤サクラさんはシングルマザー役が似合うなぁ…。
「X」こと原誠は、自分をロンダリングしたからこそ新しく幸せな人生を生き直せた。
最後の妻夫木くんのバーでの語りは、原誠のような生き方を羨ましく思うからこそだったんだろうなぁ。
妻夫木家のチグハグした空気感を醸し出すのに、真木よう子の棒演技が貢献していました(笑)
自分とはなにか?
自分が誰であるかの証拠が
自分の人生にいかほどの影響を
与えているのか?
刹那の今からこの先の未来だけをみて
相手と向き合うことの大切さ。
自分が平和沼に陥ってると忘れがちな現実。
期待を裏切らない作品だった。
冒頭の絵画が全てを語っている。
これは映画の世界の話だったか、と
見終わった後に現実と混乱しちゃうくらい
名演な俳優陣でした。
他人の人生
離婚して子連れで故郷に帰った里枝は、林業に従事する大祐と再婚。二人に子供も生まれ幸せにしていたが、事故で大祐は亡くなってしまう。その後、大祐の兄が遺影を見るなり弟ではないと告げる。里枝は城戸弁護士に、死んだ夫の身元調査を依頼し。
真相は想定を大きく超えたものではありませんでした。でも、二人の大祐だけではなく城戸の人物像も掘り下げていて、物語に奥行きがあって良いです。
自分が結婚していた相手は誰なのか? その謎を解くミステリーかと思い...
自分が結婚していた相手は誰なのか?
その謎を解くミステリーかと思いきや現代社会の問題や人間の業などを突きつけられてハラハラではなくゾクゾクした。
安藤サクラが主演なのでは?と思って観ていたのが最後まで観た時にだから妻夫木聡が主演だったんだと理解した。
ちょっとスッキリしない部分もあるから原作も読んでみたい。
ちょうどいいバランス
エンターテイメント的に謎解きしつつ、終始一貫してアイデンティティ、名前について多角的に丁寧に描いてくれていて面白かった。
ポジティブとネガティブそれぞれにちゃんと振りながらバランスも取れており良い
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