劇場公開日 2021年11月26日

ミラベルと魔法だらけの家 : インタビュー

2021年11月29日更新

自分に優しくなれないあなたへ――「ミラベルと魔法だらけの家」が教えてくれるプレッシャーとの付き合い方

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ズートピア」の監督コンビによるディズニー・アニメーション「ミラベルと魔法だらけの家」が公開中だ。バイロン・ハワード監督、脚本を兼ねたジャレッド・ブッシュ監督とシャリース・カストロ・スミス共同監督がインタビューに応じ、本作で描いた「自分に優しくする」ことの大切さを語った。

※本記事は「ミラベルと魔法だらけの家」の内容に触れています。

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本作は、「モアナと伝説の海」(2016)以来となる新作オリジナルミュージカルで、ディズニー長編アニメーションの60作目となる記念すべき作品。魔法にあふれるマドリガル家に生まれながらも、魔法が使えないヒロイン、ミラベルの冒険を描く。

マドリガル家の子どもたちは、それぞれが特別な個性を持つ“魔法のギフト(才能)”を与えられるが、ミラベルだけは魔法のギフトをもらえなかった。長女のイサベラは美しい花を咲かすことができ、次女のルイーサはレンガの橋を簡単に持ち上げてしまうほどの力持ち。三女のミラベルにとって、姉たちは完璧な存在に映り、自分の存在価値を見出せずにいた。そんなある日、マドリガル家から魔法の力が失われていく危機が訪れる。

昨今、自己肯定感の向上をテーマに、“持たざる者(本作でいうミラベル)”が、批判に晒され、苦しみ、そこから自分を愛するようになるまでを描いた作品は多い。「自分を愛そう」というメッセージはトレンド化したといえるだろう。本作にももちろんそのメッセージは含まれているが、描き方の視点が一歩進んでいる。“持てる者”であるミラベルの姉たちも含め、本作の登場人物たちが逃れたいのは、“批判”からではなく“期待”からだ。

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ミラベルは、不安を抱えているにも関わらず、笑顔を絶やさない。皮肉にも、現代のトレンド通り「私はありのままの自分を愛している! 大満足!」とすでに自分に言い聞かせ済みなのだ。しかし実際は、劣等感を胸に秘め、家族が求める自分になろうと空回りしている。一方のミラベルの姉たちは、魔法が使えるがゆえに、常に誰かの役に立つ何者かでいなければ愛されない、誰かが望む自分でいなければならないという思いに苦しんでいる。全員が、周囲からの期待に応えることに必死だ。

音楽を担当したのは、トニー賞、グラミー賞など数々の賞を受賞し、「モアナと伝説の海」などディズニー作品の楽曲も手掛けてきたリン=マニュエル・ミランダ。終盤にミラベルが歌う「奇跡はここに」に登場する「the stars don’t shine, they burn(星は輝いているんじゃない、燃えているんだ)」という歌詞は、生まれ持ったものだけで輝いているのではなく、重圧と闘いながら燃え尽きるほど努力している本作のキャラクターたちを表すようで胸が熱くなる。

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完璧に見える人でも、誰もがそれぞれの悩みを抱えている。努力することは素晴らしいことだが、本作は同時に、頑張り過ぎている人たちに「その荷物を降ろしても大丈夫」と言ってくれる。自己肯定感アップの押し付けではない、小さな声掛けのような優しい作品に仕上がっている。(取材、文/編集部)


――本作の企画の成り立ちを教えてください。

ブッシュ監督 今作の企画が始まったのは約5年前で、バイロンと私は「ズートピア」を終えたばかりでした。私たち自身がミュージシャンなこともあり、ミュージカルが大好きなので、次回作も絶対にミュージカルがいいねって話していたんです。ちょうどその頃、私とリン=マニュエル・ミランダは「モアナ」の楽曲を書き終えて、彼が「ラテン音楽をベースにしたディズニーミュージカル作品をやりたい」と言ったんです。こういったことが重なり、今作を製作したのは必然だったと思います。

――リン=マニュエル・ミランダによる楽曲も素晴らしかったです。

スミス共同監督 本当にすべての曲が素晴らしいと思っているのですが、ミラベルが歌う「奇跡を夢見て」がお気に入りです。この曲はとても正直で、脆弱で、これまでのディズニーのヒロインが歌ってきた曲とは違います。すごく“コロンビア”な感じがしますが、同時にとても普遍的なことについて歌っています。この曲が登場するシーンのアニメーションデザインも含め、シークエンスのすべてが美しいんです。

(左から)ジャレッド・ブッシュ監督、リン=マニュエル・ミランダ、シャリース・カストロ・スミス共同監督、ミラベル役のステファニー・ベアトリス
(左から)ジャレッド・ブッシュ監督、リン=マニュエル・ミランダ、シャリース・カストロ・スミス共同監督、ミラベル役のステファニー・ベアトリス

――今作のテーマを決めた経緯を教えて下さい。

ブッシュ監督 テーマは、とにかく私たち自身が深く共感できるものであることがとても重要でした。そのためには、私たちみんなの共通点を見つけなければなりませんよね。それが“家族”でした。それも親戚を含めた大家族です。私たちはみんな家族をとても愛していますが、同時にとても複雑なものだとも感じています。

「家族のややこしさについての物語にしよう」ということになり、それぞれ自分の家族と話をしたりしてリサーチしたのですが、3人ともすぐに「思っていたよりも自分の家族のことを知らない」という事実に気が付きました。家族のメンバーにはそれぞれ特定の役割のようなものがありますよね。完璧で家族みんなのお気に入りの人や、責任感のある人、というように。でも、そういう人たちも、本当はもっといろんな面を持ち合わせているのです。

私たち3人だけではなく、スタジオのスタッフと話してみると、みんな同じように感じていたことが分かりました。それで、これは世界中の家族にいえることなのではと気が付きました。

それで、「私はどれだけ家族のことを知っているのか、逆に家族はどれだけ私のことを知っているのか」という疑問を投げかけるストーリーを語れたら素晴らしいと思ったんです。

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――昨今、「自己肯定感を高めて自分を認めてあげよう」というテーマの作品が多く製作されています。“持たざる者”であるミラベルの物語のみにフォーカスすることも可能だったと思いますが、同時に“持てる者”であるミラベルの姉妹の心情も描いた理由を教えて下さい。

ハワード監督 実際には、みんながミラベルのように感じているのではないでしょうか。

スミス共同監督 この物語を考えたとき、思い浮かんだのは実はSNSの存在でした。SNS上ではみんなが完璧な人生を表現していますが、実際にはそうでないことが多いですよね。すべてを手に入れたように完璧で、苦労もせず、果てしなく強くいられて、才能に恵まれているように見える人たちも、もしかしたら私たちが知り得ない何かに葛藤しているかもしれません。

本作では、ミラベルだけではなく、そういった“すべてを手に入れたように見える人々”も同じように自分の価値や、自分は何者なのかということを探求する物語にすることが非常に重要でした。

――ミラベルやほかのキャラクターに、みなさんの人生経験はどのように反映されていますか?

ハワード監督 3人とも特にミラベルに共感することができました。自分では十分ではないのではないかという思いや、周囲からのプレッシャーに対する葛藤があるからです。いい仕事をしなければならない、いい家族でいなければならないという葛藤が物語に反映されています。

この物語では、家族に対してはとても思いやりを持っている一方で、自分に対してはすごく厳しくなってしまう心理を描いています。例え何かを成し遂げ、周囲が期待する“あるべき自分”になれていたとしても、自らを批判してしまう。ミラベルにとって、大変な旅路でした。ミラベルは、家族には愛と思いやりを持って接していますが、自分には本当に、本当に、本当に厳しいですから。

彼女はただそんな状況から自由になり、家族を愛するように自分自身を愛したかったんだと思います。私たちはこの5年間、こういったことについて個人的に話し合い、ミラベルの性格に自分たちを重ねました。

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――みなさんは“成功者”として見られることが多いと思いますが、そういった自らの立場から生まれるプレッシャーも本作に影響を与えていますか?

ブッシュ監督 もちろん、100%そうですね。こういう感情は誰しもが持つもので、人間の本質的な部分だと思います。私のことで言えば、もう10年間ディズニー・アニメーションで働いていますが、いまだによそ者のように感じています。「本当にここに属しているのかな?」と考えますし、誰かがドアをノックして、「あなたはディズニーに合わないので出て行って」と言ってくるんじゃないかとヒヤヒヤしています。

奇妙に聞こえるかもしれませんが……やっぱりすべての事柄は繋がっていて、人は自分が“どう感じるか”ということをコントロールできないのです。

何かに愚痴を言ったり、文句を言ったりすることに後ろめたさを感じるのも、それがほかのことと繋がっているからなんですよね。でも、“痛み”を感じていることを自分で認識するのはとても重要なことだと思っています。簡単ではないかもしれませんが、私たちは自分自身に、「傷ついた」「弱っている」と表現することを許してあげなければなりません。(完璧に見える)イサベラに、“そう感じてもいいよ”と伝えてあげることは、この物語のなかでも重要なことでした。

――周りの期待に応えたいという思いは、子どもから大人まで共通して抱く気持ちです。しかし、そのせいで自分の本当の気持ちをないがしろにしてしまうこともあります。そんな思いで葛藤する人々に、この映画でどんなメッセージを届けたいですか?

ハワード監督 子どもの頃の私にとって、1番の恐怖は両親にがっかりされることでした。でも、この映画を作る過程で、私の親も自分たちの親、つまり私の祖父母に対して同じ思いを抱いていることに気が付きました。さらには、彼らは子どもである私に対しても「いい親でいなければ」と感じています。“いい親”になる方法を教えてくれるガイドブックは存在しませんから。毎日、家族のなかでどう存在するべきかを探り、すべてのことに上手く対処するのは本当に大変です。

本作で人々に伝えたいのは、「あなたの周りの人たちもみんな、同じようなことに苦しみ、葛藤していて、あなたはひとりじゃない」ということです。このメッセージが私たちみんなを団結させ、より近づけてくれると思います。お互いのために強くなることができるし、すべてをひとりで抱え込まなくてもいいということを知って欲しいですね。

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ブッシュ監督 これはとても普遍的な問題ですよね。プレッシャーを感じるのは人間として当たり前で避けられないことだと思います。そして、そのプレッシャーの要因が外部からによるものだったりもしますよね。それも、ときには受け入れなければなりません。

この問題の解決方のひとつは、会話だと思います。自分の気持ちを打ち明け、他者の話を聞くのです。ひとりの人間としてその人を知れば、共感できるはずです。

バイロンが言ったように、誰もが何かしらに苦しみ、葛藤しています。ときには、そのプレッシャーや期待感がどこからやってくるものなのか理解する必要があります。大抵、自分が気付いていないだけで、良いところからくるプレッシャーだったりしますから。プレッシャーの原因を1度理解してしまえば、違う景色が見えてくるはずです。物語のなかで、ミラベルはこれが上手になっていくのです。

スミス共同監督 ふたりがすべて言ってくれましたね(笑)。ミラベルは他者の立場に立つことができて、思いやりを持っています。彼女もみなさんも、自分自身に共感と思いやりを持つことができれば、間違った方向に行くことはないでしょう。

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