ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ

劇場公開日:

ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ

解説

「プレシャス」「大統領の執事の涙」のリー・ダニエルズ監督が、1959年に44歳の若さで死去したアメリカジャズ界の伝説的歌手ビリー・ホリデイを描いた伝記ドラマ。人種差別を告発する楽曲「奇妙な果実」を歌い続けたことで、FBIのターゲットとして追われていたエピソードに焦点を当て、彼女の短くも波乱に満ちた生涯を描き出す。1940年代、人種差別の撤廃を求める人々が国に立ち向かった公民権運動の黎明期。合衆国政府から反乱の芽を潰すよう命じられていたFBIは、絶大な人気を誇る黒人ジャズシンガー、ビリー・ホリデイの大ヒット曲「奇妙な果実」が人々を扇動すると危険視し、彼女にターゲットを絞る。おとり捜査官としてビリーのもとに送り込まれた黒人の捜査官ジミー・フレッチャーは、肌の色や身分の違いも越えて人々を魅了し、逆境に立つほど輝くビリーのステージパフォーマンスにひかれ、次第に彼女に心酔していく。しかし、その先には、FBIの仕かけた罠や陰謀が待ち受けていた。脚本は、ピュリッツァー賞を受賞した劇作家のスーザン=ロリ・パークス。グラミー賞ノミネート歴もあるR&Bシンガーのアンドラ・デイがホリデイ役を演じ、劇中のパフォーマンスも担当。第78回ゴールデングローブ賞で最優秀主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、第93回アカデミー主演女優賞にもノミネートされた。

2021年製作/131分/R15+/アメリカ
原題:The United States vs. Billie Holiday
配給:ギャガ
劇場公開日:2022年2月11日

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第78回 ゴールデングローブ賞(2021年)

受賞

最優秀主演女優賞(ドラマ) アンドラ・デイ

ノミネート

最優秀主題歌賞
詳細情報を表示

インタビュー

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

  • 画像1
  • 画像2
  • 画像3
  • 画像4
  • 画像5
  • 画像6
  • 画像7

(C)2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.

映画レビュー

3.5中盤の珠玉のシーンに触れるだけでも意味がある

2022年3月29日
PCから投稿

ビリー・ホリデイを映画化するのは非常に難易度の高い挑戦だ。生まれてから死ぬまで、人生のあらゆる部分が重要すぎるし、かといって全てを満遍なく描くとエピソードが散漫になる。重要なのは「どのように焦点を絞るか」。その点、楽曲「奇妙な果実」の知られざる誕生秘話とそれをめぐるFBIとの攻防をピンポイントで伝える本作の視点は、彼女の人物像に迫る糸口として極めて有効だ。そして最大の見所は中盤付近で、前触れもなくワンカットで訪れる。「奇妙な果実」の精神性を芸術性豊かに描き出したこの場面は見応えがあり、ここを境にビリーの覚悟も確かなものとなっていく。名匠リー・ダニエルズらしい力強い場面だ。惜しいのはせっかくのドラマティックな筆運びが、男女間のもつれや薬物の問題などで、少し間延びしたように感じられること。主演アンドラ・デイの存在感が素晴らしかっただけに、何かもうひと盛り上がりあれば、と願うのは欲張りだろうか。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
牛津厚信

4.0反戦を訴えたジョン・レノンも米政府の弾圧と闘った

2022年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

米国における黒人差別と闘った音楽アーティストの伝記映画としては、近年の「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」や、アレサ・フランクリンの半生を描いた「リスペクト」などが記憶に新しい。2013年以降のブラック・ライヴズ・マター運動に呼応する映画人の動きという一面もあるのだろう。ただし活動した時代で考えると、JBやアレサの先駆的存在がビリー・ホリデイだったことが、本作を観るとよくわかる。

彼女の代表曲「奇妙な果実」の歌詞が黒人へのリンチを歌った内容(暴行されて木に吊るされた黒人の遺体を、“果実”にたとえた)であることは知っていたが、黒人社会への影響力を恐れたFBIから標的にされたのは本作を観るまで知らなかった。思い出したのは、ジョン・レノンがビートルズ解散後にニューヨークに移り住んだ1970年代、ベトナム戦争に反対し平和を訴えたことで、ニクソン政権下のFBIから盗聴や国外退去といった嫌がらせや弾圧を受けたこと。自由の国を標榜する一方で、平等や平和を訴えて体制に異を唱える人間に対して政府機関が圧力を加えたり攻撃したりという、あの二面性は一体何なのか。

ともあれ、ビリー・ホリデイの通称“レディ・デイ”から“デイ”を芸名につけたという歌手、アンドラ・デイの運命とも言うべきビリー役での主演起用だ。「奇妙な果実」などの魂のこもった歌唱が素晴らしいだけでなく、麻薬、アルコール、DVなどに苦しんだ過酷な状況も迫真の演技で体現している。「プレシャス」のリー・ダニエルズ監督らしく、アーティストを神格化するのではなく、精神的に弱い部分もしっかり描いて一人の人間のありようを示すからこそ、国家という強大な相手に屈しなかった偉業がいっそう光り輝いて見えるのだろう。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
高森 郁哉

3.0それぞれの想い・立場

2023年12月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

アメリカの人種差別問題は今に始まったことではなく、いわば「古くて新しい問題」だと思うのですけれども。
彼女の時代には、今の比ではなかったのかも知れません。

古くは1930年代から始まったという公民権運動ですが、当局としては(その是非はともかく―否、普通に考えればそれが当たり前であるからこそ)運動が燎原の火の如く一挙に広がり、勢い余って社会が転覆してしまう(世の中がひっくり返ってしまう)ような事態だけは、何としても避けたかった筈ですから、運動の過激化には、当局は神経をすり減らしていたことに間違いはなかったろうと思います。

そんな中で「奇妙な果実」を歌い続けようとする彼女の気骨には、素直な感動を覚えます。評論子は。

彼女が歌っていた当時、彼女の周囲は、漸進的に事態を改善する動きであったようにも思われます。
例えば、(これは、どうやら本作での架空の人物のようではありますが)捜査官のフレッチャーが(彼女と同じ黒人でありながら)FBIという権力側の機構に食い込んだのは、そこで実績を積むことで黒人の地位を改善していこうと考えていたとも推察できます。
(FBIの側には「黒人被疑者に対する捜査には黒人捜査官が何かと便利だし、白人捜査官が直接にタッチする=手を汚さずに済む」という打算があったのかも知れませんけれども。彼女の拘束について、結果としては、白人であるアンスリンガー長官に、いいように使われてしまっている。〉

歌うことで急進的に事態を改善しようとする彼女の眼には、周囲の漸進的にコトを進めようとする同胞たちも、彼女に対する「抵抗勢力」に映ってしまっていたのではないかとも思われました。評論子には。

そうであったとしても、そうではなかったとしても、彼女の「生き様」ということでは、観ていて胸が痛くなりそうな一本ではありました。

公民権運動に対するそれぞれの想い・立場ということでは、佳作ではあったと思います。本作は。

<映画のことば>
政府は人権を忘れがち。

コメントする 2件)
共感した! 4件)
talkie

3.5「自由の国」(のハズの)アメリカの暗部

2023年11月25日
Androidアプリから投稿

9/11の直後、ジョン・レノンの反戦歌が放送禁止状態になったり、
いち市民がバーで反戦を口にしたらFBIが訪問してきたり、
キング牧師の私生活をFBIが調べあげてたり、
「自由の国」のイメージとはかけ離れたアメリカの暗部、恥部を描く。

特に人種差別。
現代でも警察による黒人差別が見られることを考えると、当時はもっとヒドかったのだろう。

それが分かる映画。
やはりアメリカ映画の良さは、こうした自国の暗部を描くところ。
日本ではこうはいかない。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
みっく
関連DVD・ブルーレイ情報をもっと見る

他のユーザーは「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」以外にこんな作品をCheck-inしています。