劇場公開日 2021年9月23日

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「カンバーバッチの豊かな表現力と肉体改造に驚嘆」クーリエ 最高機密の運び屋 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カンバーバッチの豊かな表現力と肉体改造に驚嘆

2021年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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興奮

1960年代に米ソ対立が激化していた裏で、英国の一介のセールスマンが“機密情報の運び屋”としてリクルートされた実話に基づく。一部で「007」シリーズへの目配せもあるが、基調はジョン・ル・カレ原作のスパイ映画のように現実の諜報活動に寄せたリアルかつソリッドな演出でストーリーを展開する(ちなみにベネディクト・カンバーバッチはル・カレ原作の「裏切りのサーカス」にも出演していた)。

ソ連の最高権力者フルシチョフが米国への核攻撃も辞さない姿勢を強めていることを危惧した軍高官ペンコフスキーが、西側に接触してきた。ソ連側に疑われない運び屋としてMI6とCIAが目をつけたのは、当時共産圏の東欧諸国に工業製品を売るため出張していた英国人セールスマンのウィン。もちろんスパイの経験などないウィンは最初断るが、結局は引き受けることになり、ソ連を訪れてペンコフスキーから情報を預かったり、彼をロンドンに招いたりして英米の諜報活動に貢献していく。

カンバーバッチは、ソ連側の監視の目を意識する緊迫した状況から、ペンコフスキーに次第に心を寄せていく人間味あふれる場面、さりげなくユーモアをにじませる言動まで、実に幅の広い演技でウィンを体現している。終盤ではポストプロのCGで顔を加工したかと見紛うほどの激ヤセぶりで驚かせるが、役作りで実際に9.5kgも減量したのだとか。役者としての覚悟をうかがわせる逸話だ。

信念を貫くペンコフスキーを演じたメラーブ・ニニッゼの渋く重厚な存在感も味わい深い。ウィンの妻を演じたジェシー・バックリー(歌手役で主演した「ワイルド・ローズ」が記憶に新しい)、CIA職員役のレイチェル・ブロズナハンの女優2人も、出番こそ少なめだがそれぞれに魅力を発揮し、ストイックなストーリーに柔らかな情感を加味している。

高森 郁哉