配信開始日 2021年1月29日

「穏やかな人間関係としっとりした景色に癒されていく感覚」時の面影 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0穏やかな人間関係としっとりした景色に癒されていく感覚

2023年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1)本作の遺跡について
考古学や歴史には疎いので簡単に調べてみた。
ヨーロッパの西にあるブリテン島には古代、ケルト人が居住していたが、前1世紀にローマ帝国の属州となる。5世紀になるとゲルマン民族大移動に伴いローマは撤退、代わりにゲルマン民族の一派アングロ=サクソンが侵略、さらに11世紀にはヴァイキングと呼ばれるノルマン人が移住して、現在の英国の基礎が形成されるに至る。
かくしてブリテン島には、ケルト人・ラテン人(ローマ時代)・アングロ=サクソン人・ノルマン人などの人種と文化が重層的に混じり合っている。

ローマ帝国撤退後の中世初期は文化の消えた暗黒時代と考えられていたが、そうではなかったことを証明したのが本作のサットン・フー遺跡だった。

2)エディス・プリティについて
英国の裕福な実業家の娘として生まれ、幼い頃は世界中を旅していた。両親の死後、巨額の遺産を相続していたので、映画にあるように「発掘してみたいから広大な土地を購入」するくらいわけのないことだったはずだ。
そして彼女が発掘を依頼したのがアマチュア発掘家バジル・ブラウンというわけである。

3)映画について
およそ遺跡の発掘、しかも実話でドラマティックな映画などできるわけもないのだが、この作品はもともとそんなことを狙ってはいない。
大遺跡発掘を軸に、地主のエディスやその子とアマチュア発掘家との交遊、発掘関係者のほのかなラブロマンス、遺跡発見の先陣争いをする公立博物館や考古学者の功名心、彼らの協力ぶりを、ドイツのポーランド侵攻の迫る慌ただしい英国の社会情勢の中で描くこと――それが本作の企図である。

きわめて地味なスタンスなのだが、自転車で走るレイフ・ファインズ、何とも上品なキャリー・マリガンをはじめ、登場人物たちからそこはかとない魅力が漂ってくる。決して高ぶらず、さりげない会話で好意を伝えあう交流ぶり、彼らの身に着けるジャケットやブラウスの色合い、雨が多く鬱陶しいがしっとりした英国の丘陵の緑…。

ハリウッド映画の派手な原色や大音響、ショッキングな演出等に疲れた目と頭が癒されていく。まさに佳作と呼ぶにふさわしい作品かと思う。

徒然草枕